取り敢えず、息子は帰って来た。
夫の入院日も決まった。
夫を病院に預けたら、
息子の抱えている問題と向き合うことにしよう。
先の見通しが立ったことで、
私は、だいぶ落ち着きを取り戻していた。
入院当日は夫に付添い、海辺の病院に向かった。
一通りの検査が済むと、
入院担当の内科医と精神科医の診察が待っている。
この関所を通過して、入院病棟へと案内される。
この病院で入退院を繰り返す夫にとっては、
毎度お馴染みのコースだ。
「何で飲んだのか?」は、恒例の質問だ。
前回は「何となく」と答えて、内科医を落胆させた。
今回、右腕を三角巾で吊っている夫が発した言葉も、
感覚ずれまくりで、内科医も私も唖然としてしまった。
「依存症の状態では無いけど、骨折したので……。
酒を飲んでいると骨の付きが悪くなるので……。
酒を止めるためには入院するしかないと思って…」
「あなたは、立派な依存症ですよ。
現に、自分でお酒を止められない状態なのに、
依存症じゃないなんて……。
そんな言葉を聞くとは、がっかりだな。
崖から滑落した時は飲んでなくても、
前の晩は飲んでいたんでしょ。
脳がアルコール脳になっているんだから、
離脱症状も出るし、癲癇が出てもおかしくない。
危険過ぎる。自覚が足りないなぁ」
この期に及んで、まだ、夫は、
自身のアルコール依存症を理解していないのか!?
しどろもどろで内科医の診察を終え、
精神科医のもとへ向かった。
「今回は、何で入院を希望したのか?」
「酒を止めないと骨折が治らないから。。。」
ピント外れの夫の口をふさぎたくなった。
医師の顔色が変わり、声が険しくなった。
「そんな理由では、入院許可は出せないな。
骨を治したいなら、家で静かに寝てればいい。
ここに入院する必要はない」
「わかりました。入院しません」
夫は席を立って、診察室から出て行ってしまった。
医師に頭を下げ、私は慌てて夫を追いかけた。
入院するために、荷物も揃えてやって来たのに、
とんぼ返りなんて、悲しすぎる。。。。。
この病院の外来で、夫を診ている主治医から、
入院が必要との診断を受けて、入院日を予約したのに……。
その入院当日になって、
別の医師が「入院許可しない」と言って、
患者を混乱させることに、違和感を感じた。
顔見知りの看護師さんに事の顛末を話すと、
もう一度、医師と面談できるよう取り計らってくれた。
骨折を治すためではなく、
アルコール依存症を治めるために入院したい。
夫が断酒の意志をはっきりと伝えたので、
何とか入院治療へとこぎ着けることが出来た。
でも、出だしの躓きが、
夫の中で、わだかまりとして残っていた。。。。。。
次の日のお昼、玄関先で小さな声がした。
「ただいま」
夫の突然の帰宅で、脳天に衝撃が走った。
敷地内全面禁煙の病院で、
煙草を吸って、強制退院になったそうだ。
なのに、ちっとも、悪びれていない。
入院という一筋の光が消えた。
夫の回復が絶望的に思えて、
夫の行動に無性に腹立たしさを覚えたが……。
病気とケガを持て余し、
方向性を見失っている痛々しい病人を
追い込んではいけないと思い返して、
私は努めて平静を装った。
痛み止めの酒が再開した。
酒を飲むことで、夫は今を生きている。
夫の入院日も決まった。
夫を病院に預けたら、
息子の抱えている問題と向き合うことにしよう。
先の見通しが立ったことで、
私は、だいぶ落ち着きを取り戻していた。
入院当日は夫に付添い、海辺の病院に向かった。
一通りの検査が済むと、
入院担当の内科医と精神科医の診察が待っている。
この関所を通過して、入院病棟へと案内される。
この病院で入退院を繰り返す夫にとっては、
毎度お馴染みのコースだ。
「何で飲んだのか?」は、恒例の質問だ。
前回は「何となく」と答えて、内科医を落胆させた。
今回、右腕を三角巾で吊っている夫が発した言葉も、
感覚ずれまくりで、内科医も私も唖然としてしまった。
「依存症の状態では無いけど、骨折したので……。
酒を飲んでいると骨の付きが悪くなるので……。
酒を止めるためには入院するしかないと思って…」
「あなたは、立派な依存症ですよ。
現に、自分でお酒を止められない状態なのに、
依存症じゃないなんて……。
そんな言葉を聞くとは、がっかりだな。
崖から滑落した時は飲んでなくても、
前の晩は飲んでいたんでしょ。
脳がアルコール脳になっているんだから、
離脱症状も出るし、癲癇が出てもおかしくない。
危険過ぎる。自覚が足りないなぁ」
この期に及んで、まだ、夫は、
自身のアルコール依存症を理解していないのか!?
しどろもどろで内科医の診察を終え、
精神科医のもとへ向かった。
「今回は、何で入院を希望したのか?」
「酒を止めないと骨折が治らないから。。。」
ピント外れの夫の口をふさぎたくなった。
医師の顔色が変わり、声が険しくなった。
「そんな理由では、入院許可は出せないな。
骨を治したいなら、家で静かに寝てればいい。
ここに入院する必要はない」
「わかりました。入院しません」
夫は席を立って、診察室から出て行ってしまった。
医師に頭を下げ、私は慌てて夫を追いかけた。
入院するために、荷物も揃えてやって来たのに、
とんぼ返りなんて、悲しすぎる。。。。。
この病院の外来で、夫を診ている主治医から、
入院が必要との診断を受けて、入院日を予約したのに……。
その入院当日になって、
別の医師が「入院許可しない」と言って、
患者を混乱させることに、違和感を感じた。
顔見知りの看護師さんに事の顛末を話すと、
もう一度、医師と面談できるよう取り計らってくれた。
骨折を治すためではなく、
アルコール依存症を治めるために入院したい。
夫が断酒の意志をはっきりと伝えたので、
何とか入院治療へとこぎ着けることが出来た。
でも、出だしの躓きが、
夫の中で、わだかまりとして残っていた。。。。。。
次の日のお昼、玄関先で小さな声がした。
「ただいま」
夫の突然の帰宅で、脳天に衝撃が走った。
敷地内全面禁煙の病院で、
煙草を吸って、強制退院になったそうだ。
なのに、ちっとも、悪びれていない。
入院という一筋の光が消えた。
夫の回復が絶望的に思えて、
夫の行動に無性に腹立たしさを覚えたが……。
病気とケガを持て余し、
方向性を見失っている痛々しい病人を
追い込んではいけないと思い返して、
私は努めて平静を装った。
痛み止めの酒が再開した。
酒を飲むことで、夫は今を生きている。