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歪み

外来診察日、肝機能の数値は低くなっていた。
飲んでいるのに、前回の値の半分位になっていた。
主治医は、断酒が継続していると勘違い。

「だいぶ、落ち着いて来ましたね。
 お酒は飲んでないのかな?」

「えぇ、まぁ。少し飲んだり、やめたりで……」

夫は、きまり悪そうに、ぼそぼそと答えていた。
相変わらず、飲酒量は誤魔化しているが、
飲酒している事実は伝えていた。

「飲んでいれば、また、状態は悪くなりますよ。
 飲まないよう、頑張ってみて下さい」

主治医は、ゆるくたしなめただけで、
次回(4週間後)の予約を入れて、診察終了。

夫は、検査結果の数値に満足しているようだった。
節酒のお陰と思っているのだろう。

ひと安心した夫は、その後も、
節酒路線を続行しているようだが……。

夫の隠れ飲んでいるウイスキーの小瓶は、
日本酒に換算すると3合相当。
散歩の途中で、缶酎ハイを空けていたら、
日に4~5合は飲んでいる計算になる。

世間では、これを節酒とは言わない。

そもそも、
アルコール依存症に節酒なんて有り得ない。
認知は歪んだままだ。

病気の渦中にいて抜け出せない夫が不憫で、
可哀想な人だと、ずっと思っていた。

毎朝、野菜を刻み、ジュースを手作りし、
三度の食事も安心安全な物をと心掛けて……。

私なりに、夫の身体を気遣って来たつもりだ。

いつかきっと、
酒に頼らない新しい生き方を始める。
私の夫は、このままで終わる男じゃない。
病気は回復する。

病人には支える手が必要と思い、
夫の側に居続けて来たが……。

状況は、なかなか好転しない。
夫は、病院には繋がっているが、
酒を手放す境地には至っていない。

そんな夫の日常を振り返って、はたと気付いた。
夫は可哀想な人じゃなくて、幸せな人なのかもしれない。

早々に退職したので、毎日が日曜日だ。
職場の煩わしい人間関係から解放され、
仕事への責任もなくなり、イライラしなくなった。

午前中、散歩に出て、公園のベンチでひと休み。
保育士に連れられて遊びに来ている、
保育園児たちの可愛い仕草を眺めるのが日課だ。

普段は無口な夫だが、
園児たちの様子は、目を細めて話してくれる。
もうすぐ会える孫への思いを膨らませているのだろう。

昼食後は、録画したテレビを見ながら、
いつの間にか、うたた寝。

夕食前に、また散歩に出る。
今晩の寝酒を仕入れに行っているのだろう。

夕食後も、しばらくはテレビ鑑賞。
「寒い」と言うので、居間は、
こたつと扇風機が同席する可笑しな風景だが、
夫の意向を優先し、こたつは片付けずにいる。

夜10時近くになると、夫は自室へ移動。
お気に入りのCDを聞きながら飲酒タイム???

飲んでいる限り、
身体の悪化は避けられないが……。

今の所、規則正しい食事と処方薬の飲用で、
糖尿病や肝臓病は小康を保っている。

酒なしの暮らしを考えられない夫にとって、
病気を発症してもなお、飲んでいられる環境は、
「幸せ」と言ってもいいような気がしてしまう。

どうやら、私も認知が歪んでいる。
命を削りながらの飲酒を静観しているのだから。

混沌の中に長く居過ぎたせいかもしれない。
寄り添うって、難しい。。。。。。


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ゲ 様

コメント、ありがとうございます。

新しい生き方を始めていらっしゃる事、
大変喜ばしく思います。

一日も早くお心が元気になりますよう、
陰ながらお祈りしております。

No title

小吉様
こんにちは。
なんと言っていいか分からない複雑な気持ちになりました。
私は精神病罹患者で、服薬しながらアルコールを手放せないでいます。
社会とつながれない、友達ができない、家族に愛されていない…
ストレスは無限にあってつい飲んでしまう状況です。

夫がいますが、私の病状が荒れている頃、子供はあきらめてほしいと言われてしまい…
当然のように子供のいる未来を希望していた私は絶望しました。
夫と二人きりの生活はぎくしゃくしています。

小吉様、娘さんのもとに健康な赤ちゃんが生まれるといいですね。
そして夫様もお子さん、お孫さんに囲まれて少しでも長生きして欲しい。

こんな私が言うのも変ですが、、、お酒に負けないで欲しいです。

小吉様にとって穏やかな日が来ますように。

kay様

お立ち寄り、ありがとうございます。

夫の飲酒は止まりそうもなく……。
底なし沼に落ちていくのを眺めている
自分が空恐ろしく、心は沈みますが……。
もうすぐ初孫に会えると思うことで、
なんとか、やり過ごしている日々です。。。。。

本当に、ストレスは無限であることを
痛感しております。

ご病気をお持ちの身ではなおの事、
ご心中お察し申し上げます。

どうぞ、くれぐれもお身体、
ご自愛下さいますように。

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ハ…様

私も、孤独に悩んでおりました。

「いつか、大変な事になる……」は、現実になり、
絶望感でいっぱいになりました。

この苦しみを分かち合える仲間を求めて、
家族会や自助会に参加しました。
孤立しないことが、自分を助けることになったようで……。
一歩踏み出したことで、次の方向が見えて来たように思えます。

どうぞ、くれぐれもご自愛下さいますよう、お祈り申し上げます。
プロフィール

小吉

Author:小吉
相棒の発症のおかげで、
加減して飲むことを学習。
依存症予備軍!?
猫舌の呑助です。。。。。

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