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お見通し

雑踏の待合室。
入院日と重なっていたので、
旅行バッグ持参の人が多い。

その人たちを目で追いかけてしまう。
所作はゆっくりだが、
自力で歩けているし、肉付きもいい。

どう見ても、夫の方が、
入院に相応しい衰弱振りなのだ。

「強制退院になった奴が、
 入院支度して来ている」

夫は、呆れたような言い方をしていた。

「また、治療する決心が出来たんだから、
 今度は、良くなるかもしれないね」

私は、再チャレンジャーにエールを送った。

失敗は失敗のままで終わらせない。
何度でも、やり直せばいいと思う。
この病気は、しつこいのだから。
まずは、体からアルコールを抜かないと、
次へは進めないのだから。


夫の名前が呼ばれたので、
ふたりで診察室に入った。

「だいぶ具合が悪そうですね。
 どのくらい飲んでますか?」

主治医は、ストレートに聞いて来た。

「いえ、飲んでません。。。。」

消え入りそうな声で夫は答えていた。

パソコン画面上の血液検査結果を見ながら、
主治医は言った。

「γGTPが653。
 飲んでいなくて、
 こんな数字は出ませんよ」

「……少しだけ」

夫は、ウイスキーのポケット瓶を1本だけ、
夜に飲んでいると、申告していた。

大体、アルコール依存症者は、
自身の酒量を少なめにサバを読むそうで、
夫も然り。。。。

主治医はお見通しなのだ。

「たぶん、このまま行くと、
 自力でお酒を止めることは無理ですよ。
 入院した方がいいと思いますよ」

「……入院は、いやです」

夫は、か細い声で拒否していた。

「入院しなくても、
 お酒を止められればいいのですが……。
 ご自身で出来そうなら、
 1週間様子をみることにしましょう」

入院治療を拒絶している患者の意思を
主治医は尊重している。

1週間後の診察予約を入れて、
私たちは病院を後にした。

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小吉

Author:小吉
相棒の発症のおかげで、
加減して飲むことを学習。
依存症予備軍!?
猫舌の呑助です。。。。。

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