診療予約日の朝、夫は無言で席に着くと、
用意された朝食をゆっくりと食べていた。
一足先に、食事を済ませた私は、
夫の姿を遠巻きに眺めながら、
何度も何度も、自分に問いかけていた。
私は、今日、どうしたいのか?
家で留守番でいいのだろうか?
手紙を読んでも、夫は何も言って来ない。
手紙の効果はなかったようだが、
一人で病院に行かせるのは、やはり心配だ。
診察室の中に一緒に入れなくてもいい。
行き帰りの付添いだけでもしたい。
同行できるよう、
早めに家事を終わらせようと、飛び回っていたら、
まだ6時半なのに、夫は身支度を終えていた。
「もう、出掛けるの?」
「9時の予約だから、7時には家を出るから…」
「わかった。 すぐ、支度するから、待っててね」
戸締りの確認で、ベランダの窓際に立った時、
目に飛び込んできた光景に、心がぽっと明るくなった。
朝顔が、今朝、最初の一輪を咲かせていたのだ。

こぼれ落ちた朝顔の種が勝手に芽を出し、
つるを伸ばしていたので、支柱を立ててはみたものの、
育つか半信半疑だった。
この朝顔は5~6年前、おそらくは、
飲みながらの散歩の途中で、夫が拾った種だった。
初めこそ、ベランダのプランターで賑やかに咲いていたが、
年を追うごとに貧相になり、種の収穫もなくなっていたのだ。
夫が連れて来た朝顔が、このタイミングで花を付けた。
「今日は二人で病院へ行ってらっしゃいね」と、
まるで、見送っているかのように思えた。
2時間近く車を走らせ、病院に到着。
診察室の前の椅子に座り、順番を待つ間、
夫に、それとなく聞いてみた。
「先生に、飲んでいることをちゃんと伝えようね。
今のパパの病状に見合った治療を相談してみようね」
夫は、しばらく黙っていたが、
「今日はいい。 相談は今度にする」
いつものように、薬だけ処方してもらって、
やり過ごそうと考えているようだ。
歯痒い思いだったが、夫がそれでいいのなら、
これ以上、私は口出ししないと決めた。
夫の番になったので、
杖を頼りに歩く夫の手を引いて、私も診察室に入った。
退院後の通院で、夫婦同席の受診は今回が初めて。
主治医は、夫の具合の悪さをすぐに感じ取っていた。
「だいぶ、つらそうですね」
主治医の声がけに、夫は、
「スリップしちゃいました!」と、さらりと答えていた。
「そうですか。 どの位、飲んでますか?」
「毎晩、2合位。。。。。」
小さく見積もっている。
実際は、その倍は飲んでいるはずなのに……。
でも、飲んでいることが病気なのだから、
量の誤差は問題じゃないと思って、黙っていた。
「このままでは、日に日に、悪くなっていきますよ。
入院して、解毒から始めた方がいいと思いますよ」
夫も、そうするより他に道はないと思っていたようだ。
すんなりと了解し、2週間後の入院予約を取り付けた。
また、7月の入院だ。
最初の入院も、2回目の入院も7月だった。
巷の暑さから逃れ、院内で過ごす生活。
病院が夫の避暑地になっている。
夫の命を助けたいと思った。
再飲酒のまま、終わらせたくなかった。
やり直して欲しいと思った。
私は、お節介をしてしまったのだろうか?
夫は、死ぬまで飲み続けたかったのかもしれない。
生きててほしい。 助かる病気なのだから。
そんなふうに思うのは、私のわがままなのだろうか?
家に戻り、しぼんだ朝顔の花を見ながら、
夫の入院を手放しで喜べない私がいた。
用意された朝食をゆっくりと食べていた。
一足先に、食事を済ませた私は、
夫の姿を遠巻きに眺めながら、
何度も何度も、自分に問いかけていた。
私は、今日、どうしたいのか?
家で留守番でいいのだろうか?
手紙を読んでも、夫は何も言って来ない。
手紙の効果はなかったようだが、
一人で病院に行かせるのは、やはり心配だ。
診察室の中に一緒に入れなくてもいい。
行き帰りの付添いだけでもしたい。
同行できるよう、
早めに家事を終わらせようと、飛び回っていたら、
まだ6時半なのに、夫は身支度を終えていた。
「もう、出掛けるの?」
「9時の予約だから、7時には家を出るから…」
「わかった。 すぐ、支度するから、待っててね」
戸締りの確認で、ベランダの窓際に立った時、
目に飛び込んできた光景に、心がぽっと明るくなった。
朝顔が、今朝、最初の一輪を咲かせていたのだ。

こぼれ落ちた朝顔の種が勝手に芽を出し、
つるを伸ばしていたので、支柱を立ててはみたものの、
育つか半信半疑だった。
この朝顔は5~6年前、おそらくは、
飲みながらの散歩の途中で、夫が拾った種だった。
初めこそ、ベランダのプランターで賑やかに咲いていたが、
年を追うごとに貧相になり、種の収穫もなくなっていたのだ。
夫が連れて来た朝顔が、このタイミングで花を付けた。
「今日は二人で病院へ行ってらっしゃいね」と、
まるで、見送っているかのように思えた。
2時間近く車を走らせ、病院に到着。
診察室の前の椅子に座り、順番を待つ間、
夫に、それとなく聞いてみた。
「先生に、飲んでいることをちゃんと伝えようね。
今のパパの病状に見合った治療を相談してみようね」
夫は、しばらく黙っていたが、
「今日はいい。 相談は今度にする」
いつものように、薬だけ処方してもらって、
やり過ごそうと考えているようだ。
歯痒い思いだったが、夫がそれでいいのなら、
これ以上、私は口出ししないと決めた。
夫の番になったので、
杖を頼りに歩く夫の手を引いて、私も診察室に入った。
退院後の通院で、夫婦同席の受診は今回が初めて。
主治医は、夫の具合の悪さをすぐに感じ取っていた。
「だいぶ、つらそうですね」
主治医の声がけに、夫は、
「スリップしちゃいました!」と、さらりと答えていた。
「そうですか。 どの位、飲んでますか?」
「毎晩、2合位。。。。。」
小さく見積もっている。
実際は、その倍は飲んでいるはずなのに……。
でも、飲んでいることが病気なのだから、
量の誤差は問題じゃないと思って、黙っていた。
「このままでは、日に日に、悪くなっていきますよ。
入院して、解毒から始めた方がいいと思いますよ」
夫も、そうするより他に道はないと思っていたようだ。
すんなりと了解し、2週間後の入院予約を取り付けた。
また、7月の入院だ。
最初の入院も、2回目の入院も7月だった。
巷の暑さから逃れ、院内で過ごす生活。
病院が夫の避暑地になっている。
夫の命を助けたいと思った。
再飲酒のまま、終わらせたくなかった。
やり直して欲しいと思った。
私は、お節介をしてしまったのだろうか?
夫は、死ぬまで飲み続けたかったのかもしれない。
生きててほしい。 助かる病気なのだから。
そんなふうに思うのは、私のわがままなのだろうか?
家に戻り、しぼんだ朝顔の花を見ながら、
夫の入院を手放しで喜べない私がいた。