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朝顔

診療予約日の朝、夫は無言で席に着くと、
用意された朝食をゆっくりと食べていた。

一足先に、食事を済ませた私は、
夫の姿を遠巻きに眺めながら、
何度も何度も、自分に問いかけていた。

私は、今日、どうしたいのか?
家で留守番でいいのだろうか?

手紙を読んでも、夫は何も言って来ない。
手紙の効果はなかったようだが、
一人で病院に行かせるのは、やはり心配だ。
診察室の中に一緒に入れなくてもいい。
行き帰りの付添いだけでもしたい。

同行できるよう、
早めに家事を終わらせようと、飛び回っていたら、
まだ6時半なのに、夫は身支度を終えていた。

「もう、出掛けるの?」

「9時の予約だから、7時には家を出るから…」

「わかった。 すぐ、支度するから、待っててね」

戸締りの確認で、ベランダの窓際に立った時、
目に飛び込んできた光景に、心がぽっと明るくなった。

朝顔が、今朝、最初の一輪を咲かせていたのだ。

P1070063_20140713102831e9b.jpg

こぼれ落ちた朝顔の種が勝手に芽を出し、
つるを伸ばしていたので、支柱を立ててはみたものの、
育つか半信半疑だった。

この朝顔は5~6年前、おそらくは、
飲みながらの散歩の途中で、夫が拾った種だった。

初めこそ、ベランダのプランターで賑やかに咲いていたが、
年を追うごとに貧相になり、種の収穫もなくなっていたのだ。

夫が連れて来た朝顔が、このタイミングで花を付けた。
「今日は二人で病院へ行ってらっしゃいね」と、
まるで、見送っているかのように思えた。

2時間近く車を走らせ、病院に到着。
診察室の前の椅子に座り、順番を待つ間、
夫に、それとなく聞いてみた。

「先生に、飲んでいることをちゃんと伝えようね。
 今のパパの病状に見合った治療を相談してみようね」

夫は、しばらく黙っていたが、
「今日はいい。 相談は今度にする」

いつものように、薬だけ処方してもらって、
やり過ごそうと考えているようだ。

歯痒い思いだったが、夫がそれでいいのなら、
これ以上、私は口出ししないと決めた。

夫の番になったので、
杖を頼りに歩く夫の手を引いて、私も診察室に入った。

退院後の通院で、夫婦同席の受診は今回が初めて。
主治医は、夫の具合の悪さをすぐに感じ取っていた。

「だいぶ、つらそうですね」

主治医の声がけに、夫は、
「スリップしちゃいました!」と、さらりと答えていた。

「そうですか。 どの位、飲んでますか?」

「毎晩、2合位。。。。。」

小さく見積もっている。
実際は、その倍は飲んでいるはずなのに……。
でも、飲んでいることが病気なのだから、
量の誤差は問題じゃないと思って、黙っていた。

「このままでは、日に日に、悪くなっていきますよ。
 入院して、解毒から始めた方がいいと思いますよ」

夫も、そうするより他に道はないと思っていたようだ。
すんなりと了解し、2週間後の入院予約を取り付けた。

また、7月の入院だ。
最初の入院も、2回目の入院も7月だった。
巷の暑さから逃れ、院内で過ごす生活。
病院が夫の避暑地になっている。

夫の命を助けたいと思った。
再飲酒のまま、終わらせたくなかった。
やり直して欲しいと思った。

私は、お節介をしてしまったのだろうか?

夫は、死ぬまで飲み続けたかったのかもしれない。

生きててほしい。 助かる病気なのだから。
そんなふうに思うのは、私のわがままなのだろうか?

家に戻り、しぼんだ朝顔の花を見ながら、
夫の入院を手放しで喜べない私がいた。

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Y様

夫が入院治療へと繋がるよう、私が仕向けてしまったのでは……。
夫の本心からではなく、夫が私の思いに合わせてくれたような、
そんな気がして……。
夫の気持ちを優先していないような、自分の都合を押し付けたような、
そんな不安に駆られておりました。。。。。。

あなた様のお言葉、一つひとつが、心に響きます。
脚踏みしてしまいがちな私に、前に進む勇気を下さいます。

本当に、いつも、ありがとうございます。

No title

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アル症の息子 様

以前、ご紹介して頂いて以来、
更新をチェックしております。

なかなか変えられない自分の行為に、
気付かされてばかりです。。。。。

ありがとうございます。

Y様

あなた様のコメントは、
気弱になりがちな私の心を奮い立たせて下さいます。

ご紹介の本は、私の知りたいことが
詰まっているように思われましたので、
さっそく、注文しました。

温かいお心をかみしめております。
ありがとうございます。

末武笑様

経済的なご心配を頂き、ありがとうございます。
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小吉

Author:小吉
相棒の発症のおかげで、
加減して飲むことを学習。
依存症予備軍!?
猫舌の呑助です。。。。。

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