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今のうちに…

相変わらず、この病院の外来は満員御礼だ。

自分の順番が気になるらしく、
頻繁に、窓口の看護師をつかまえては、
尋ねている年配の女性がいた。

女性は、付き添いだった。
患者は、車いすに座っている旦那さんだ。
すでに、アルコールが入っている様子だった。
声がでかいし、態度もでかい。

「もう、いい!!  帰る、帰るぞ!!」

その男性は、車いすから立ち上がり、
正面玄関へ、すたすたと歩いて行ってしまった。
奥さんが、泣きそうな顔をして追いかけていた。

その夫婦の家での様子が垣間見られて、
悲しい気持ちになった。

他人事とは思えない。。。。。。

なんとか、正気に戻ってほしくて、
なだめすかして、ここに連れて来たのだろう。

家族の願いで来院したが、
こんなに長時間待たされるのは、不本意だ。
ちょっと、酒を飲み過ぎただけじゃないか。
酒を控えればいいんだろう。
そんなこと、分かっているし、自分で出来る。

旦那さんの後ろ姿が、そう語っているようだった。

夫も、その夫婦を目で追いかけていたので、
「帰っちゃったね」と、耳元でささやくと、
「そんな奴ばかりさ」
夫は、吐き捨てるように言った。

夫の順番は、思っていたより早く来た。

約4か月前までは、ここの入院患者だったのだから、
分厚いカルテがあるので、話はどんどん進む。

出来るだけ早い入院を望んでいることを申し出ると、
最短なら、本日入院可能と言われて……。

「えっ?」と、夫も私も顔を見合わせてしまった。

でも、すぐに、私は思った。
これがチャンスなんだ。
この波に乗った方がいいんだ。

夫も、一瞬は戸惑ったが、
どうせ、入院は覚悟の上での受診だったので、
スムーズに事は運んだ。

入院前の検査が立て続けに用意されて、
検査室をあちこち梯子した。

レントゲン室まで付き添ってくれた看護師さんは、
前回の入院の時にもお世話になった人だった。

夫がレントゲン室に入ったので、
私は、そのベテラン看護師さんと二人きりになった。

ふと、愚痴が出てしまった。

「3回目なんですよ。
 今度こそ、回復して欲しいのですが……。
 前回のことを思うと、あんまり期待は持てなくて……」

「7回も8回も出たり入ったりを繰り返している
 患者さんも、珍しくないですよ」

3回位はよくあることと、前向きに捉えるよう、
励ましてくれたのかと思いきや、

「奥さん、覚悟が必要ですよ。
 この病気は、突然、亡くなることもあるし、
 ずるずると生き続け、介護が大変になることも…。
 覚悟が出来ないなら、今のうちに、
 縁を切っておいた方がいいですよ。
 あなたのためにも、ご主人のためにも……」

回復しないことを前提に、話が流れている。
回復なんて、きっと、奇跡に等しいのだ。

病院には繋がったが、
病気を治めるのは、本人次第なのだ。

まだ見ぬ退院後なのに、私の中では、
前回同様の顛末が頭をよぎってしまう。

「漠然とですが、
 私が看取るしかないような気がするのですが……。
 まだ、心は揺れて、定まりません。。。。」

「ご主人さんは、飲まなければ、とても、いい人なのね。
 だから、あなたは、躊躇されているのでしょう。
 でも、覚悟は持っていないとね」

好ましくない結果になった時、
それに対応する心構えが、私にあるだろうか。

『今のうちに…』
看護師さんの言葉が、胸に刺さった。
プロフィール

小吉

Author:小吉
相棒の発症のおかげで、
加減して飲むことを学習。
依存症予備軍!?
猫舌の呑助です。。。。。

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