1期治療病棟では、アルコール離脱症状の治療と、
アルコールに関連した疾患の検査が中心なので、
夫は、ベッドの上で過ごすことが多かった。
暇なのだろう。
毎回、夫からのメールには、
「今度、来る時でいいから…」と前置きしながら、
入り用なものが羅列してあった。
それらの多くは、
手元にあれば、きっと助かるものばかりだ。
出来るだけ早く、届けてあげたい思いに駆られ、
週に2回ほどのペースで、差し入れ面会が始まった。
入院する前は、絶えず苛立っていた夫だったが……。
アルコールを抜くことで、言葉の毒も消えて、
顔付きも明るく、お喋りも弾む。
「院内で、映画ビデオの上映があったんだけど、
腰が痛くて、椅子に座っていられなくて……。
部屋の後ろの壁に寄り掛かって、立ち見だよ。
しんどかったぁ~」
その映画の題名を聞いて、
私は、すぐに映画のストーリーが思い浮かんだ。
アルコール依存症の夫との日常を、
永瀬正敏さんと小泉今日子さんが夫婦役で好演した、
『毎日かあさん』だった。
2011年2月、その映画の封切りを知って、
居ても立っても居られなくなり、
私は、夫に内緒で、映画館に足を運んだのだった。
2010年9月に依存症治療の専門病院を退院した夫は、
その年の年末には、お酒をこっそり飲み始めていた。
再飲酒を認めたくない私は、気付かぬ振りを通していた。
映画で使われていた病院の外風景は、夫の入院先だった。

あの病院に夫を預け、回復を祈ったのに……。
夫は、また、酒の世界に舞い戻ってしまったのだ。
映画をみているうちに、
いろいろ込み上げてきて、涙が止まらなかった。
当時、夫にもこの映画をみて欲しいと思った。
アルコール依存症を家族に持つ苦しみを、
少しでもいいから感じ取って欲しいと思った。
あれから2年以上経ち、映画鑑賞が現実になった。
治療プログラムのひとつとして、
夫は、その映画をみる機会を得たのだ。
「旦那に酒を飲むなと言っている女房が、
夜になると、自分だけ、ぐいぐい酒飲んでいて……。
見ていて、不愉快だった。
長時間、映画に付き合わされて、疲れちゃったよ」
映画の内容は、夫にとっては、
ひどく詰まらないものだったようで、
不快感だけが残ったらしい。
この調子じゃ、断酒はあまり期待できそうもない。
取り敢えずの入院で、体の調子は回復しつつあるけれど、
心が置いてきぼりのような気がする。
退院しても、また、再飲酒して、
その醜態は、よりパワーアップするにちがいない。
気が付けば、不安と恐怖を膨らませ、
取り越し苦労の癖が取れていない私がいた。
治療は、まだ始まったばかりだというのに……。
先のことは分らないのだから、
余計な心配はしないようにしよう。
夫が、映画をくだらないと切り捨てたことに、
がっかりすることはない。
夫には、夫の感じ方があるのだから。
私は、夫の一挙一動を気にしすぎだ。
良くないことだと思う。
夫が入院中の今こそ、命の洗濯だ。
アルコールに関連した疾患の検査が中心なので、
夫は、ベッドの上で過ごすことが多かった。
暇なのだろう。
毎回、夫からのメールには、
「今度、来る時でいいから…」と前置きしながら、
入り用なものが羅列してあった。
それらの多くは、
手元にあれば、きっと助かるものばかりだ。
出来るだけ早く、届けてあげたい思いに駆られ、
週に2回ほどのペースで、差し入れ面会が始まった。
入院する前は、絶えず苛立っていた夫だったが……。
アルコールを抜くことで、言葉の毒も消えて、
顔付きも明るく、お喋りも弾む。
「院内で、映画ビデオの上映があったんだけど、
腰が痛くて、椅子に座っていられなくて……。
部屋の後ろの壁に寄り掛かって、立ち見だよ。
しんどかったぁ~」
その映画の題名を聞いて、
私は、すぐに映画のストーリーが思い浮かんだ。
アルコール依存症の夫との日常を、
永瀬正敏さんと小泉今日子さんが夫婦役で好演した、
『毎日かあさん』だった。
2011年2月、その映画の封切りを知って、
居ても立っても居られなくなり、
私は、夫に内緒で、映画館に足を運んだのだった。
2010年9月に依存症治療の専門病院を退院した夫は、
その年の年末には、お酒をこっそり飲み始めていた。
再飲酒を認めたくない私は、気付かぬ振りを通していた。
映画で使われていた病院の外風景は、夫の入院先だった。

あの病院に夫を預け、回復を祈ったのに……。
夫は、また、酒の世界に舞い戻ってしまったのだ。
映画をみているうちに、
いろいろ込み上げてきて、涙が止まらなかった。
当時、夫にもこの映画をみて欲しいと思った。
アルコール依存症を家族に持つ苦しみを、
少しでもいいから感じ取って欲しいと思った。
あれから2年以上経ち、映画鑑賞が現実になった。
治療プログラムのひとつとして、
夫は、その映画をみる機会を得たのだ。
「旦那に酒を飲むなと言っている女房が、
夜になると、自分だけ、ぐいぐい酒飲んでいて……。
見ていて、不愉快だった。
長時間、映画に付き合わされて、疲れちゃったよ」
映画の内容は、夫にとっては、
ひどく詰まらないものだったようで、
不快感だけが残ったらしい。
この調子じゃ、断酒はあまり期待できそうもない。
取り敢えずの入院で、体の調子は回復しつつあるけれど、
心が置いてきぼりのような気がする。
退院しても、また、再飲酒して、
その醜態は、よりパワーアップするにちがいない。
気が付けば、不安と恐怖を膨らませ、
取り越し苦労の癖が取れていない私がいた。
治療は、まだ始まったばかりだというのに……。
先のことは分らないのだから、
余計な心配はしないようにしよう。
夫が、映画をくだらないと切り捨てたことに、
がっかりすることはない。
夫には、夫の感じ方があるのだから。
私は、夫の一挙一動を気にしすぎだ。
良くないことだと思う。
夫が入院中の今こそ、命の洗濯だ。