取りあえず、入院の日は決まったが、だいぶ先の話だ。
今度こそ、確実に入院を見届けたい。
私の夫は、酒に呑まれたまま、
尻尾を巻いて逃げるような男じゃない。
きっと、ピンチの中から立ち上がる。
そう思うことで、折れそうな心を持ちこたえていた。
夫は、終日、ベッドで過ごしていた。
足のしびれ感は耐え難く、足を切り捨てたいと嘆いていた。
「もう少しの辛抱だから。
入院すれば、きっと、楽になるから……」
私は、そんな気休めしか言えなかった。
痛みを抱える夫にとって、
酒は手放せない万能の薬になっていた。
家の中を這って移動している夫だったが、
酒瓶が空になると、こっそり、部屋を抜け出し、
自転車で買いに出ているのだ。
そういう病気とはいえ、
酒への執着はすさまじく、呆れるばかりだった。
体調がすこぶる悪くなり、
いよいよ、外出もままならなくなると、
夫は息子を呼びつけて、酒の購入を頼んでいた。
もちろん、息子は拒否。
途方にくれた夫は、望みを私に託した。
「パパの身体をダメにした酒を、
私が買って、パパに渡すなんて……。
そんなことは、したくない。
だから、酒を買いには行きません」
私も、夫の頼みを突き放した。
夫は、役に立たない私への恨み辛みを言って、
散々、私をののしっていたが……。
夜9時を少し回っていたと思う。
酒を諦めきれない夫は、自転車でコンビニを目指した。
途中で、よろけて、こけたらしい。
頭から血、足からも血、服は泥だらけで、帰って来た。
しかも、手ぶら。
「チクショー、店まで行けなかった」
悔しがる夫の口元から、だらだらと血が出ていた。
「くちびる、切ったの?」
「違う。 舌を切った。
酒、買えなかったから、後で、また行く!!」
何としても、酒を手に入れる勢いだ。
気が済むまで、どうぞ、ご自由に。。。。。
そんな無関心な私の態度が、気に食わなかったようで、
夫の口から、過激な発言が飛び出した。
「舌を噛み切って、死のうとしたんだ。。。。」
口に当てたタオルが、見る見る血で染まっていく。
異様な光景。正気の沙汰ではない。
「なんで、そんなことを……。
病院に行こう。 血、出過ぎだから……」
動揺する私を横目に、「ほっとけば、そのうち、止まる」
酒を買いそこなったので、飲み足してはいないはずだが、
所詮、終日アルコール漬けの脳味噌だ。
自責の念が強いのだろう。
「死ねなかった。 舌を噛み切るのは、難しい。。。。」
上前歯は差し歯、奥は虫歯の治療でガタガタの夫。
豆腐が固くて噛めないとまで言い放った歯の持ち主なのだ。
歯が弱くて大事に至らなくて、幸いだった。
これ以上、動き回ってほしくないのに、
やはり、酒が手元にないと不安なのだろう。
買いに行こうと立ち上がった時、
大きくふらつき、居間のサッシ窓に夫の背中がぶつかった。
その衝撃で、窓ガラスが割れた。

夜中の大音響は近所迷惑以外の何ものでもない。
世間様に対して、本当に肩身が狭い。
尻餅をついて座り込んでしまった夫を、
ガラスの破片から引き離した。
夫にケガはなく、ほっとしたのだが、わだかまりが残る。
なんで、こうなってしまうのか。。。。。
入院は、ゴールではない。
スタートラインだと思っている。
位置に付いてほしいのに、
夫は、スタートラインから遠ざかるばかりだ。。。。。
今度こそ、確実に入院を見届けたい。
私の夫は、酒に呑まれたまま、
尻尾を巻いて逃げるような男じゃない。
きっと、ピンチの中から立ち上がる。
そう思うことで、折れそうな心を持ちこたえていた。
夫は、終日、ベッドで過ごしていた。
足のしびれ感は耐え難く、足を切り捨てたいと嘆いていた。
「もう少しの辛抱だから。
入院すれば、きっと、楽になるから……」
私は、そんな気休めしか言えなかった。
痛みを抱える夫にとって、
酒は手放せない万能の薬になっていた。
家の中を這って移動している夫だったが、
酒瓶が空になると、こっそり、部屋を抜け出し、
自転車で買いに出ているのだ。
そういう病気とはいえ、
酒への執着はすさまじく、呆れるばかりだった。
体調がすこぶる悪くなり、
いよいよ、外出もままならなくなると、
夫は息子を呼びつけて、酒の購入を頼んでいた。
もちろん、息子は拒否。
途方にくれた夫は、望みを私に託した。
「パパの身体をダメにした酒を、
私が買って、パパに渡すなんて……。
そんなことは、したくない。
だから、酒を買いには行きません」
私も、夫の頼みを突き放した。
夫は、役に立たない私への恨み辛みを言って、
散々、私をののしっていたが……。
夜9時を少し回っていたと思う。
酒を諦めきれない夫は、自転車でコンビニを目指した。
途中で、よろけて、こけたらしい。
頭から血、足からも血、服は泥だらけで、帰って来た。
しかも、手ぶら。
「チクショー、店まで行けなかった」
悔しがる夫の口元から、だらだらと血が出ていた。
「くちびる、切ったの?」
「違う。 舌を切った。
酒、買えなかったから、後で、また行く!!」
何としても、酒を手に入れる勢いだ。
気が済むまで、どうぞ、ご自由に。。。。。
そんな無関心な私の態度が、気に食わなかったようで、
夫の口から、過激な発言が飛び出した。
「舌を噛み切って、死のうとしたんだ。。。。」
口に当てたタオルが、見る見る血で染まっていく。
異様な光景。正気の沙汰ではない。
「なんで、そんなことを……。
病院に行こう。 血、出過ぎだから……」
動揺する私を横目に、「ほっとけば、そのうち、止まる」
酒を買いそこなったので、飲み足してはいないはずだが、
所詮、終日アルコール漬けの脳味噌だ。
自責の念が強いのだろう。
「死ねなかった。 舌を噛み切るのは、難しい。。。。」
上前歯は差し歯、奥は虫歯の治療でガタガタの夫。
豆腐が固くて噛めないとまで言い放った歯の持ち主なのだ。
歯が弱くて大事に至らなくて、幸いだった。
これ以上、動き回ってほしくないのに、
やはり、酒が手元にないと不安なのだろう。
買いに行こうと立ち上がった時、
大きくふらつき、居間のサッシ窓に夫の背中がぶつかった。
その衝撃で、窓ガラスが割れた。

夜中の大音響は近所迷惑以外の何ものでもない。
世間様に対して、本当に肩身が狭い。
尻餅をついて座り込んでしまった夫を、
ガラスの破片から引き離した。
夫にケガはなく、ほっとしたのだが、わだかまりが残る。
なんで、こうなってしまうのか。。。。。
入院は、ゴールではない。
スタートラインだと思っている。
位置に付いてほしいのに、
夫は、スタートラインから遠ざかるばかりだ。。。。。