何を寝ぼけたことを……。
家族は、開いた口がふさがらない。
「しばらく、旅に出るから……」
実母に会いに行く。
中学時代の友人に会いに行く。
夫の母は、今年84歳になる。
痴呆で、老人介護施設に入っている。
帰省は年に一回以下の息子の顔を
彼の母は覚えているのだろうか。
田舎の友人は、夫の本当の病気を知らない。
羽目を外して、飲み明かすことだろう。
半病人の夫が、今、
一番にやらなくてはいけないことは、
アルコール依存症の入院治療である。
すでに、入院予約済みなのだ。
自身の病気が落ち着いたら、
気が済むまで、田舎でゆっくりすればいい。
2泊3日の救急入院から帰ったばかりの夫に、
神奈川県から山口県への長旅に耐える体力はない。
家族は皆、彼の無謀な計画を反対したが……。
夫は、言い出したら後へ引かない。
「アルコール依存症の専門病院に入院したら、
3か月近く、拘束され、我慢の日々を送ることになる。
だから、今のうちに、やりたいことをやってしまいたい。
入院予約日の前日には帰って来るから……」
娘は、父親の危険な旅を阻止しようと懸命に訴えたが、
願いは届かず、絶望感で仕舞には泣き出してしまった。
家族を敵に回して、
夫は新幹線を乗り継いで、田舎に行ってしまった。
そして、自宅に戻る予定日の前夜、夫から電話が……。
こちらへの到着時間を知らせるものと信じていた私は、
受話器を投げ捨てたい衝動に駆られた。
「最初は、俺の顔見ても、分らなかったのに……。
やっと、俺の事、思い出してくれて……。
俺の顔見て、かあちゃん、ずっと泣いているんだ。
俺、かあちゃんの側に、も少し、いてあげたい。
だから、病院へは入院日の変更をしておいたから……」
話が違うではないか。
入院に間に合うよう戻る約束だったのに……。
夫は、嘘つきだ。
痴呆はあるが、母親は危篤でもなんでもない。
今すぐ、命に係わる病気はない。
規則正しい入所生活のお陰で、
痩せていた母親は、顔も体もふっくらとなり、元気らしい。
むしろ、夫の方が心身ともに病気漬け状態だ。
自身の入院を1週間以上も延期してまで、
母親に寄り添う理由が、理解しがたい。
入院したくない口実としか思えない。
父親の入院が自己都合で変更になったことを
子どもたちに告げた。
娘は、「パパを信じられない」と、大きく嘆いた。
息子は、「やっぱり。。。。」と、ひと言。
想定内のようで、動揺していなかった。
そんな息子に、つい、愚痴をこぼしてしまった。
「泣きやまないおばあちゃんの事が心配で、
こっちに帰れないなんて。
パパが側にいて、おばあちゃんの顔を見続けていても、
おばあちゃんのボケが治るわけじゃないのに……。
もう、顔を見たのだから、気が済んだはず。
今度は、自分が身体を治す番なのに……。
パパは、勝手な事ばかり言っている。。。。。」
夫への不満をぶちまける私に、息子が静かに言った。
「たぶん、まだ、ずっと先かもしれないけど、
もし、ママがボケちゃって、
俺の顔を見て、ハラハラ泣いていたら、
俺は、ずっと、ママを見ていると思うよ。
ママが、俺の事を息子だと分らなくなっちゃっても、
俺は、側でママを見ていたい。。。。」
私には、目に見えている夫の病気しか頭にない。
これ以上、夫の病気に振り回されたくない。
一日でも早く、夫が回復してくれなくては困る。
半世紀を過ぎた私の人生は、後はそう長くない。
残り少ない人生を穏やかに暮らしたい。。。。。
私こそ、自分勝手そのものだ。
つらい夫の立場を思い遣ることなく、
夫の母親を切り捨てている。
一事が万事、この有り様。
私が、夫の病気の進行に拍車を掛けている。
自分の心の中に、意地悪な虫が住みついている。
家族は、開いた口がふさがらない。
「しばらく、旅に出るから……」
実母に会いに行く。
中学時代の友人に会いに行く。
夫の母は、今年84歳になる。
痴呆で、老人介護施設に入っている。
帰省は年に一回以下の息子の顔を
彼の母は覚えているのだろうか。
田舎の友人は、夫の本当の病気を知らない。
羽目を外して、飲み明かすことだろう。
半病人の夫が、今、
一番にやらなくてはいけないことは、
アルコール依存症の入院治療である。
すでに、入院予約済みなのだ。
自身の病気が落ち着いたら、
気が済むまで、田舎でゆっくりすればいい。
2泊3日の救急入院から帰ったばかりの夫に、
神奈川県から山口県への長旅に耐える体力はない。
家族は皆、彼の無謀な計画を反対したが……。
夫は、言い出したら後へ引かない。
「アルコール依存症の専門病院に入院したら、
3か月近く、拘束され、我慢の日々を送ることになる。
だから、今のうちに、やりたいことをやってしまいたい。
入院予約日の前日には帰って来るから……」
娘は、父親の危険な旅を阻止しようと懸命に訴えたが、
願いは届かず、絶望感で仕舞には泣き出してしまった。
家族を敵に回して、
夫は新幹線を乗り継いで、田舎に行ってしまった。
そして、自宅に戻る予定日の前夜、夫から電話が……。
こちらへの到着時間を知らせるものと信じていた私は、
受話器を投げ捨てたい衝動に駆られた。
「最初は、俺の顔見ても、分らなかったのに……。
やっと、俺の事、思い出してくれて……。
俺の顔見て、かあちゃん、ずっと泣いているんだ。
俺、かあちゃんの側に、も少し、いてあげたい。
だから、病院へは入院日の変更をしておいたから……」
話が違うではないか。
入院に間に合うよう戻る約束だったのに……。
夫は、嘘つきだ。
痴呆はあるが、母親は危篤でもなんでもない。
今すぐ、命に係わる病気はない。
規則正しい入所生活のお陰で、
痩せていた母親は、顔も体もふっくらとなり、元気らしい。
むしろ、夫の方が心身ともに病気漬け状態だ。
自身の入院を1週間以上も延期してまで、
母親に寄り添う理由が、理解しがたい。
入院したくない口実としか思えない。
父親の入院が自己都合で変更になったことを
子どもたちに告げた。
娘は、「パパを信じられない」と、大きく嘆いた。
息子は、「やっぱり。。。。」と、ひと言。
想定内のようで、動揺していなかった。
そんな息子に、つい、愚痴をこぼしてしまった。
「泣きやまないおばあちゃんの事が心配で、
こっちに帰れないなんて。
パパが側にいて、おばあちゃんの顔を見続けていても、
おばあちゃんのボケが治るわけじゃないのに……。
もう、顔を見たのだから、気が済んだはず。
今度は、自分が身体を治す番なのに……。
パパは、勝手な事ばかり言っている。。。。。」
夫への不満をぶちまける私に、息子が静かに言った。
「たぶん、まだ、ずっと先かもしれないけど、
もし、ママがボケちゃって、
俺の顔を見て、ハラハラ泣いていたら、
俺は、ずっと、ママを見ていると思うよ。
ママが、俺の事を息子だと分らなくなっちゃっても、
俺は、側でママを見ていたい。。。。」
私には、目に見えている夫の病気しか頭にない。
これ以上、夫の病気に振り回されたくない。
一日でも早く、夫が回復してくれなくては困る。
半世紀を過ぎた私の人生は、後はそう長くない。
残り少ない人生を穏やかに暮らしたい。。。。。
私こそ、自分勝手そのものだ。
つらい夫の立場を思い遣ることなく、
夫の母親を切り捨てている。
一事が万事、この有り様。
私が、夫の病気の進行に拍車を掛けている。
自分の心の中に、意地悪な虫が住みついている。