「誰かを愛するということは、単なる強い感情ではない。
それは決意であり、判断であり、約束である」
そんな一文を目にした時は、まだ学生で、
なんか大袈裟だなと思っていた。
成り行きで、夫との共同生活に入った私に深い考えは無く、
ずるずると月日は流れた。
振り返れば、危機らしきものは何度かあったのに、
同居を解消するまでには至らなかったのだ。
おそらく、酒がふたりの暮らしに一役買っていたのだろう。
喧嘩しても、酒を飲んでいるうちに、
どうでもよくなってしまい……。
喧嘩の原因を水に流すというか、酒で流していたような???
「あんた達、この先、どうするつもり?」
母に催促されたのがきっかけで、
私たちは入籍し、夫婦になった。
その2か月後、
夫の計らいで、挙式並びに披露宴が用意され、
多くの人に、人生の門出を祝っていただいた。
結婚式は、神前だった。
式直前に誓詞を渡された夫は、一瞬戸惑いながらも、
漢字は全てふりがな付きの文に安堵し、無事に読み終えた。
細かい文面は忘れてしまったが、
「……苦楽を共にして……」だけが、ずっと耳に残っている。
酒で壊れていく夫を眼の当たりにして、
その奇行の数々から夫の存在が疎ましく思え、
この状況から逃げ出したいと願う時、
いつも、心に浮かぶのは、この「苦楽を共に」のフレーズだ。
私は、あの日、約束したのだ。
たとえ、軽い決意と薄っぺらな判断であっても、
ふたりで生きてゆくと誓ったのだ。
苦しんでいるのは、私だけじゃない。
夫も苦しいのだ。
苦しみは、ふたりで協力して乗り越える。
そういう約束だ。
今月は、深夜の失禁が繰り返されている。
夫がトイレの場所を間違えた時は、
私や息子が、誤って踏まないように、
汚した床面に大きく新聞紙を広げて置くことにしている。
夫の目に触れるよう、夫に自覚してもらうよう、
掃除せず、現場保存したつもりだが……。
朝一番に目覚める夫は、
さっさと新聞紙をゴミ箱へ片付けて、何も語らない。
洗濯機の横には、脱ぎ捨てたパンツの山。
いったい、何回汚して、何回はき替えているんだと、
呆れるくらいの枚数だ。
夫は、繰り返される自分のしくじりを認めているのだろうか。
夫が尋ねれば、広げた新聞紙の訳、大量のパンツの訳を
私は、冷静に説明する用意はあるが……。
それを求めていない夫を相手に話す気はない。
きっと、険のある言い方になってしまうから。
言葉には、思いが宿るのだ。
互いに不快になることは避けたい。
だから、語らず、素知らぬ振りでやり過ごす。

天才バカボン柄のパンツは、娘からのプレゼントだ。
5月の爽やかな風を受けて、パンツたちがそよぐ。
「これでいいのだ!!」と、苦しみを笑い飛ばす。
それは決意であり、判断であり、約束である」
そんな一文を目にした時は、まだ学生で、
なんか大袈裟だなと思っていた。
成り行きで、夫との共同生活に入った私に深い考えは無く、
ずるずると月日は流れた。
振り返れば、危機らしきものは何度かあったのに、
同居を解消するまでには至らなかったのだ。
おそらく、酒がふたりの暮らしに一役買っていたのだろう。
喧嘩しても、酒を飲んでいるうちに、
どうでもよくなってしまい……。
喧嘩の原因を水に流すというか、酒で流していたような???
「あんた達、この先、どうするつもり?」
母に催促されたのがきっかけで、
私たちは入籍し、夫婦になった。
その2か月後、
夫の計らいで、挙式並びに披露宴が用意され、
多くの人に、人生の門出を祝っていただいた。
結婚式は、神前だった。
式直前に誓詞を渡された夫は、一瞬戸惑いながらも、
漢字は全てふりがな付きの文に安堵し、無事に読み終えた。
細かい文面は忘れてしまったが、
「……苦楽を共にして……」だけが、ずっと耳に残っている。
酒で壊れていく夫を眼の当たりにして、
その奇行の数々から夫の存在が疎ましく思え、
この状況から逃げ出したいと願う時、
いつも、心に浮かぶのは、この「苦楽を共に」のフレーズだ。
私は、あの日、約束したのだ。
たとえ、軽い決意と薄っぺらな判断であっても、
ふたりで生きてゆくと誓ったのだ。
苦しんでいるのは、私だけじゃない。
夫も苦しいのだ。
苦しみは、ふたりで協力して乗り越える。
そういう約束だ。
今月は、深夜の失禁が繰り返されている。
夫がトイレの場所を間違えた時は、
私や息子が、誤って踏まないように、
汚した床面に大きく新聞紙を広げて置くことにしている。
夫の目に触れるよう、夫に自覚してもらうよう、
掃除せず、現場保存したつもりだが……。
朝一番に目覚める夫は、
さっさと新聞紙をゴミ箱へ片付けて、何も語らない。
洗濯機の横には、脱ぎ捨てたパンツの山。
いったい、何回汚して、何回はき替えているんだと、
呆れるくらいの枚数だ。
夫は、繰り返される自分のしくじりを認めているのだろうか。
夫が尋ねれば、広げた新聞紙の訳、大量のパンツの訳を
私は、冷静に説明する用意はあるが……。
それを求めていない夫を相手に話す気はない。
きっと、険のある言い方になってしまうから。
言葉には、思いが宿るのだ。
互いに不快になることは避けたい。
だから、語らず、素知らぬ振りでやり過ごす。

天才バカボン柄のパンツは、娘からのプレゼントだ。
5月の爽やかな風を受けて、パンツたちがそよぐ。
「これでいいのだ!!」と、苦しみを笑い飛ばす。