自損事故の後、夫は車の運転には慎重になり、
プライベートでは、殆どハンドルを握らなくなった。
息子が所属している野球クラブの県1次予選が始り、
夫は、電車とバスを乗り継いで球場へ……。
私は勤務日だったので、応援には行かなかった。
夕方6時過ぎ、仕事から戻ると、
すでに夫は観戦を終えて、家に帰っていた。
日焼けか、酒焼けか、よく分からないが、
夫の顔は、赤黒かった。
「夕飯は外で食べよう。 串揚げを食べに行こう!!」
仕事に出る前に、夕食の準備を整えておいた私は、
外食には乗り気でなかったが……。
あまりにも、夫が強引に誘うので、断れなかった。
さっきまで、夫は一人で、串揚げを食べていたそうだ。
店主に、「妻を連れて、また来る」と約束したらしい。
寂れた商店街の一角に、その店はあった。
初老の店主が一人で切り盛りしていて、
油焼けする狭い店内に、客は私たち夫婦だけだった。
夫は、野菜や魚介の串揚げを次々に注文し、
最後に、「ポンニで…」と、言っていた。
聞き慣れない用語だったので、不審に思っていると、
日本酒の熱燗2合徳利が運ばれて来て、納得した。
お猪口が二つ置いてあったが、お酌する気にはなれない。
徳利の存在を無視していると、
夫が、私の盃に酒をそそぎ、次に自分の盃にもついだ。
ここは、居酒屋だ。
客が求めない限り、水やお茶は出て来ない。
ここは、酒を飲む処だ。
遠慮したところで、夫ががぶ飲みするだけだ。
夫は、私に酒を飲ませることで、
自分の飲酒も正当化しようとしているのだろう。
飲んではいけない酒も、二人で飲めば怖くない!?
共犯者の固めの盃?のようだ。
飲みたければ、飲めばいい。
飲んで飲み過ぎて、きっと、具合が悪くなるだろう。
私に、飲酒をやめさせる力はない。
飲んではいけない身体だということを
酒に教えてもらうしかないのだ。
私は、淡々と飲み進めた。
久しぶりの酒は、思いのほか、口当たりがよい。
心の緊張がほぐれていくようで……。
夫には毒な酒が、私には百薬の長に思えてしまう。
酔いが回り、夫は饒舌になった。
息子の野球チームがボロ負けしたそうで、
観ていて、気分が悪くなってしまったそうで……。
迷解説者が、試合の内容を振り返っていた。
本来の持ち味が出せないままに、
打ち込まれて終わってしまったピッチャーの息子。
憂さを晴らしたいのは、息子の方なのに、
夫が悔しがって、酒盛りしている。
飲んだ理由を野球観戦の所為にしているが、
病気の身体が原因で飲んでいるに過ぎない。
そして、身体は、正直だ。
いくつもの「底」をすり抜けてしまった夫に、
また、「底」のようなものが訪れたのだ。
プライベートでは、殆どハンドルを握らなくなった。
息子が所属している野球クラブの県1次予選が始り、
夫は、電車とバスを乗り継いで球場へ……。
私は勤務日だったので、応援には行かなかった。
夕方6時過ぎ、仕事から戻ると、
すでに夫は観戦を終えて、家に帰っていた。
日焼けか、酒焼けか、よく分からないが、
夫の顔は、赤黒かった。
「夕飯は外で食べよう。 串揚げを食べに行こう!!」
仕事に出る前に、夕食の準備を整えておいた私は、
外食には乗り気でなかったが……。
あまりにも、夫が強引に誘うので、断れなかった。
さっきまで、夫は一人で、串揚げを食べていたそうだ。
店主に、「妻を連れて、また来る」と約束したらしい。
寂れた商店街の一角に、その店はあった。
初老の店主が一人で切り盛りしていて、
油焼けする狭い店内に、客は私たち夫婦だけだった。
夫は、野菜や魚介の串揚げを次々に注文し、
最後に、「ポンニで…」と、言っていた。
聞き慣れない用語だったので、不審に思っていると、
日本酒の熱燗2合徳利が運ばれて来て、納得した。
お猪口が二つ置いてあったが、お酌する気にはなれない。
徳利の存在を無視していると、
夫が、私の盃に酒をそそぎ、次に自分の盃にもついだ。
ここは、居酒屋だ。
客が求めない限り、水やお茶は出て来ない。
ここは、酒を飲む処だ。
遠慮したところで、夫ががぶ飲みするだけだ。
夫は、私に酒を飲ませることで、
自分の飲酒も正当化しようとしているのだろう。
飲んではいけない酒も、二人で飲めば怖くない!?
共犯者の固めの盃?のようだ。
飲みたければ、飲めばいい。
飲んで飲み過ぎて、きっと、具合が悪くなるだろう。
私に、飲酒をやめさせる力はない。
飲んではいけない身体だということを
酒に教えてもらうしかないのだ。
私は、淡々と飲み進めた。
久しぶりの酒は、思いのほか、口当たりがよい。
心の緊張がほぐれていくようで……。
夫には毒な酒が、私には百薬の長に思えてしまう。
酔いが回り、夫は饒舌になった。
息子の野球チームがボロ負けしたそうで、
観ていて、気分が悪くなってしまったそうで……。
迷解説者が、試合の内容を振り返っていた。
本来の持ち味が出せないままに、
打ち込まれて終わってしまったピッチャーの息子。
憂さを晴らしたいのは、息子の方なのに、
夫が悔しがって、酒盛りしている。
飲んだ理由を野球観戦の所為にしているが、
病気の身体が原因で飲んでいるに過ぎない。
そして、身体は、正直だ。
いくつもの「底」をすり抜けてしまった夫に、
また、「底」のようなものが訪れたのだ。