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冷淡

最近は、静かな飲酒が続いていたので、
私は高枕の夜を過ごしていたのだが……。

災いは忘れた頃にやって来る。

真夜中、夫はベッドから転がり落ちた。
別室で寝ていた私は、その衝撃音で飛び起きた。
酔っ払いの出現に、心臓の鼓動は高鳴る。

耳を澄まして、夫の出方を待つ。

いつもなら、わめき立てる声が届くのに……。
その夜は、不気味に静まり返っていた。

恐る恐る夫の部屋に向かう。

床の上で、うつ伏せたまま、
夫は歯を食いしばっていた。

明らかに、飲み過ぎだ。
自力で起き上がることが不可能になっている。

私は、その様子を見下ろしながら、
「どうしたの?」と、冷やかに尋ねた。

「…トイレ……」と、蚊の鳴くような声。

トイレは、この部屋を出て10歩ほど先にある。

腕に力が入らない夫は、
這うことも出来ない状態だった。

病気だから、酒を止められない。
病気が酒を飲ませているだけのことなのに……。

こんなになるまで、飲むなんて、
やはり、愚かしく思えてしまう。

酔っ払いの醜態を見せられると、
病気という概念が吹き飛んでしまうのだ。

こんな所で、垂れ流されたら面倒なので、
努めて丁寧に引きずりながら、
トイレまで連れて行き、便座に座らせた。

ガリガリに痩せ細っているのに、
脱力している夫は、思いのほか、重たかった。

辛うじて、用は足したものの、
身動きが出来なくなっていた夫を、
また、引きずりながら、ベッドに納めた。

「もう、病院には行きたくない。
 死んでもいいんだ。。。。。

自暴自棄になっている夫に、
「死なないで!! 死んじゃイヤだ!!」と、
感情をぶつける気にはなれず……。

「そんなに簡単には死ねないと思うよ」と、
突き放した言い方をしてしまった。

「こんなになっちゃって、ごめんね。
 本当にごめん。 ごめんなさい。。。」と、
夫は何度も私に詫びていたが……。

所詮、酔っ払いのたわ言にすぎない。

「お願いだから、静かに寝て下さいね」

布団を被せ直すと、
「ふぁ~い」と、間の抜けた返事が……。

「あぁ~あ、面倒臭い。
 お望みどおりに、早く死ねるといいのにねぇ~」

心の中で拝んでしまった。
病人に優しく出来ない自分がいる。。。。。

プロフィール

小吉

Author:小吉
相棒の発症のおかげで、
加減して飲むことを学習。
依存症予備軍!?
猫舌の呑助です。。。。。

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