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欲の皮

「腹が痛い。腸の具合が悪い」

食後、夫は市販の胃腸薬を常用するようになった。
止められない酒の影響で、内臓が悲鳴を上げているのだろう。

「痛みがあるのなら、病院で見てもらおうよ。
 予約日以外でも診察OKって、先生が言ってたし…」

「いや、いい。 大丈夫」

大丈夫であるはずがない。
酒を飲み続けている限り、病状は進行するのだ。

「今の痛みを我慢して、手遅れになったら、
 大変だから。。。。一緒に病院へ行こう」

駄目押しで誘ってみた。

「まだ、いい。 大丈夫だから」

夫は、次の診察予約日まで、様子を見るという。
それで夫がいいのなら、
本人の意思を尊重するしかない。。。。。。。

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私は、夫の通う病院で月2回開催される家族会に、
出来る限り顔を出すようにしている。

夫が不調のさなか、家族会があった。

治療に消極的な夫への不安を吐き出すと、
精神保健福祉士から助言が……。

「入院すれば、回復し、断酒も夢じゃないと
 あなたはどんどん期待をふくらませてしまう。
 この期待が、
 ご主人を動けなくしているのかもしれませんね。
 あなたの期待を感じれば感じるほど、
 ご主人は、期待に添えないであろう自分を思い、
 気持ちが後ろ向きになってしまい、
 その結果、入院を足踏みしてしまっているのかも……」

私の期待感が夫を動けなくしている!?

「今、あなたがご主人に一番望むことは何ですか?」

「まだまだ、生きててほしい。
 初孫の誕生を一緒に祝いたい。。。」

「だったら、生きててほしいことだけを
 伝えるに留めましょう。
 お酒をやめてほしいと欲張らないことです

欲の皮が張りついた私の声掛けで、夫はネガティブに……。
なんだ、そういうことだったのか。

期待も程々、欲張ってはいけないのだ。
的をしぼって、思いを伝える。

自分のやっていることがいい結果にならないと、
私は、すぐにジレンマに陥ってしまう所がある。

「ずっと、働きかけ続けなければいけない大変さが
 ありますが、淡々と続けること。
 この働きかけが、相手の中に蓄積されることで、
 いつか思いは伝わります」

精神保健福祉士の言葉を道しるべにして、
何とか落ち着きを得ている。

驚きと予感

外来診察の予約日までは、
市販の胃腸薬で誤魔化しながら、夫は耐えていた。

学生時代、夫はキックボクシング部に所属していた。
試合前は、減量で自身の身体を追い込むこと多々。
夫は苦痛に耐えることに長けているのかもしれない。

診察予定日になり、私たちは病院へ出向いた。

「肝機能の数値が高いですね。
 飲んでますか?」

医師は、夫の飲酒を前提に話し始めた。

「実は、腹の調子が悪くて……。
 ひどい下痢が治まったら、
 今度は、腹が張って重苦しくて……。
 今、酒は飲んでません」

夫はこっそり断酒していたのだ。
節酒しているようには見えたが、
全く飲んでいなかったとは……。
うれしい驚きだった。

医師も意外に思えたようで、身を乗り出して来た。

「それは、それは、素晴らしい。
 何日位になりますか?」

「今日で、1週間です」

「そうですか。腹痛がきっかけでも、
 断酒出来たことは良い事ですね。
 この調子で、断酒が続けば、
 肝機能の数値も落ち着いて来るでしょう。
 飲まない日を更新していきましょう」

「はい」

晴れ晴れとした顔色の夫を見て、
私も誇らしい気持ちになっていた。

このまま、断酒の波に乗ってくれたら、
どんなにか幸せだろう。



モビール

その晩、夫に思いを伝えた。

「病院で言ってたでしょ。 飲んでないって。
 それ聞いて、すごくうれしかった!!
 ホントにホントに、うれしかった!!
 ひとりで頑張ってたんだね、スゴイなぁ」

夫は、照れ臭そうにしていた。
ほんのりとした幸せを感じながらも、
心の片隅に一抹の不安がよぎる。

酒を控えるほどになっていた腹の不調は、
医師の説明では、

「ひどい下痢が続いたのはアルコールのせい。
 そのアルコールを止めたので、
 今度は腹が張ってガスが貯まるようになっただけ。
 整腸剤で様子を見ましょう。
 断酒していれば、良くなります」との事。

腹の不調をただ事じゃないと思っていた夫は、
大したことじゃなかったと一安心してしまっている。

この流れだと、
加減して飲み始めるような予感がする。
ずっと側で夫を見て来た私。
悪い予感に関しては、百発百中の腕前だ。

プロフィール

小吉

Author:小吉
相棒の発症のおかげで、
加減して飲むことを学習。
依存症予備軍!?
猫舌の呑助です。。。。。

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