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残された時間

夫が正気を取り戻すまで、
気長に見守るのが私の役目。

自分の立ち位置を決めてみたが……。
まだまだ、夫の一挙一動に
過敏に反応してしまう私がいる。

見守るだけ。
夫の回復を強要しない。
夫を立ち直らせようと張り切らない。
夫には夫のペースがあるのだと、
事あるごとに自分に言い聞かせている。

酒をやめられない人はたくさんいる。
入退院を繰り返しているのは、夫だけじゃない。
四六時中酒が手に入る世の中で、
一生酒を飲まずに生きるのは、難しい。
難しいことは、できなくて当たり前。

断酒できない夫がダメなのではなく、
断酒できている人が凄すぎるのだ。

私は、自分が落ち着けるよう、
自分のために、「断酒できなくて当たり前」
と思うようにしている。

おかげで、隠れ酒の気配を感じても、
夫を責めることもしなくてすむ。

こんなに悠長に構えていたら、
夫は酒で命を落としてしまうかもしれない。

でも、不死身なんてありえないのだから、
死を恐れていても始まらない。

年を重ね、私に残された時間も確実に減っている。
私だって、死と隣り合わせなのだ。

だから、誰かに会いたいと思ったら、
できる限り、会いに行くようにしている。
後回しにしていたら、
会えないままで終わってしまうかもしれないから。

夫の両親に会いたい。

夫の酒害に巻き込まれて、
一杯いっぱいの日々を言い訳に、
夫の実家へは、長いこと足を運んでいなかった。

お義父さんのお墓に手を合わせ、
介護施設で暮らすお義母さんを見舞いたい。

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今しかないという思いに駆られ、
退院した夫と連れ立って、
夫の実家のある山口へと旅に出た。

変わり果てた姿

思いたったが吉日とばかりに、
新幹線に飛び乗った。

夫の母が介護施設に入所して以来、
実家は無人のまま、3年以上経っていた。
寝泊りできる環境ではないので、
近隣のホテルを転々とする3泊4日の旅路。

酒にやられっぱなしの夫の体力を考えると、
これが最後の長旅のようにも思えた。

お義母さんが暮らす施設は、
子ども達が小さい頃、
帰省して遊ばせた海辺の近くに建っていた。

松林を通り抜け、砂浜に立つと、
あの頃の私たち家族の風景が鮮明によみがえる。

あれから、長い年月を経て、
病気を発症した夫と二人で、今ここにいる。

孫の子守りに大奮闘のお義父さんは、墓の中。
アル中のお義父さんの世話係りで、
飛び回っていたお義母さんは、老人介護施設の中。

何とも複雑な思いで、その施設を訪ねた。

私の知っているお義母さんは、
小さくきゃしゃな体つきだったが、
しばらく振りのお義母さんは、
別人のように丸々と肥えていた。

お元気そうに見えた。
私たちのことを分かっている様子だった。
新薬が、痴呆の進行をゆるやかに
しているのかもしれない。

丸々と太った母は、
ガリガリに痩せ細った息子を見ても、
驚くでもなく、心配するでもなく……。
淡々としていた。

夫が語りかけると、短く答えるだけで、
会話が弾まない。
自分からは話しかけてこない母親の姿に
病状が垣間見られる。

去年の秋に結婚式を挙げた娘の写真を見せると、
「まあ、きれい!!」と、
口元に少しだけ笑みを浮かべた。

お義母さんの笑顔を写真に収めたくて、
カメラを向けたが……。

3人

私だけが笑っている、
おかしな写真になってしまった。

ままならない病人同士、
通じるものがあるのかもしれない。
カメラは、親子の同じような表情を
写し撮っていた。。。。。。

伝えておく

父親の墓参りを済ませて、歩き出した時、
夫がぽつりと言った。

「この墓には入らないから……」

12年前の父親の葬儀の時も
そんなようなことを言っていた。

酒浸りの父親と勝ち気な母親。
夫は、両親の言い争いが絶えない家庭で
育ったそうだ。

同じ墓の中、親子で仲良くなんて、
受け入れがたいことなのだろう。

「俺をこの墓に入れないで」

夫の死に水を取るのは私と、
夫は思っているらしいが……。

私が長生きするとは限らないし、
この先、私と夫の関係が
変わらないとも断言できない。

「子ども達にも伝えておくね」と返事した。

父親だけが眠っている墓は、
いずれ、母親が入り、おしまいになるのだろう。

それにしても、
父親を反面教師にしていた夫なのに、
酒に飲まれてしまった人生は、父親と同じだ。


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ただ、3泊4日の道中、
酒を飲まずにいてくれたことだけは、
本当に嬉しかった。

旅の初日は、私の誕生日だったのだ。
飲まない夫と旅ができたことが、
最高のプレゼントになったと思っている。

温度差

私がいなくても、探し物が見つかるように、
家の中は、整理整頓を心掛けている。

夫の病気関連の資料などは
ひとまとめにして、居間の隅に並べてある。

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夫が手にしてくれることを願って、
依存症の本や自助会のパンフレットも
これ見よがしに置いてあるが……。
読んではいないようだ。

結構、いいことが書いてあるのになぁ。
残念。。。。。

この棚に、先だっての入院時の資料が
無造作に押し込まれていることを発見。

さっそく、新しいファイルを用意して、
№4のラベルを貼り、そこに整理した。

毎度お馴染みのテキストをぱらぱらとめくり、
ある所で、「えっ?」と、なった。

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夫は、そんなふうに思っているんだ。

酒で夫が壊れて、夫の奇行、暴言に混乱していた私。
あれは、私のひとり相撲だったのか。

「……家族には迷惑を掛けていないと今でも思っている……」

これが、夫の本心なのか。
そこだけが、目に焼き付いて、
私との温度差に落胆してしまった。

泥酔しているから、記憶がないのだろう。
なんか、ずるいなと思えてしまう。

被害者意識がめらめらと膨れ上がり、
覚えていないのなら、教えてあげよう。

私がどんなに傷付いたか、夫に分かってもらいたい。
夫を責めたい衝動に駆られたが……。

「……意識が無い場面で掛けていたのかも……」
と、夫は、自身を振り返っている。

自覚のない夫相手に不満をぶちまけても、
覚えていない数々の出来事に対して、
夫は、どう謝ればいいのだろうか。
いたずらに、夫を苦しめるだけだ。

お互いに、苦しい思いになって、
負のスパイラルに落ち込むだけだ。

これ以上、いやな思いはいらない。

家族が割に合わない、
家族をがっかりさせる、
そういう病気なんだと割り切ることにした。


いつ何があってもいいように、
家の中の自分の物は、どんどん処分して、
最小限に抑えている。

いつか、使うかも…と、
物を溜め込むのは、もうやめたのだ。

いつか、問いただそうと、
怒りを溜め込むのもやめようと思う。
「まっ、いいか」とつぶやいて、
いやな気分は切り捨ててしまおう。
恨みつらみの廃棄処分を自分に言い聞かせている。

空元気

6センチほど、髪を切った。
夫は、全然気付いていない。

夫の関心は、酒を飲むことだけに向けられている。
女房の髪型なんか、見ていない。
もしかしたら、私の顔も忘れたかも……。

頭の中は、酒のことでいっぱい。
酒だけを大事に抱え込んでいる。

病気に操られて、
酒を飲んでいるに過ぎないのに。。。。

夫を見ていると、
「いい加減、目を覚まして」と、
口出ししたくなってしまう。

でも、それは余計なひと言。
指摘されて、気付いて、
「はい、わかりました」と、
とんとん拍子に進む事柄ではない。

だから、私は言わない。
黙って、なりゆきを見守るようにしている。

夫の病気をしょい込んで、
私まで、憂鬱になることはない。
いつも、気分転換を心掛けて、
私は私の心を守るようにしている。


依存症を取り上げたテレビ番組で、
精神科医が話していた。

「家族の精神状態がおかしくなると、
 不思議なことに、
 依存症はますます元気になって、
 ますます本人の飲酒行動が
 ひどくなる傾向があります」

夫の依存症がこれ以上活発にならないよう、
私は、意地でも元気で居続けると、決めている。

3、3、3

酒を手放さない夫を見ていると、
という数字が頭に浮かぶ。

某断酒会の講演会に参加した時、
退院5年後のデータと称して、
講師が「3,3,3」と語っていた。

酒を止めている人~割。
飲んだり止めたりで、
入退院を繰り返している人~割。
死亡~割。

夫がアルコール依存症治療のため、
入院したのは、2010年7月。

断酒へのスタートラインに立ったことを
家族は喜んだが……。

退院か月後には、飲酒再開。
会社へは行っていたが、
大量飲酒の影響で体調は悪くなるばかり。
騙しだましの勤務は、年が限界だった。

2013年7月再入院、10月退院。

今度こそと思う家族の願いは、
退院後、日ほどで消えた。
酒量はすぐに元通りになり、会社は休職。

アルコール依存症特有の飲み方、酔い方で、
家族に恐怖と絶望をまき散らし……。

混乱した家族も、正気を失い、
家中、病人だらけになった。

2014年1月再々入院、4月退院。
7月再々々入院、10月退院。

治療まではたどり着けるのに、
毎度毎度、その先がない。

入退院を繰り返す割に納まり、
回復のコースから外れてしまっている。

きっと、これからも、
夫は入院回数を更新するのだろう。

状況が許す限り、
夫の気が済むまで、やればいいと思う。

夫の気が済んだ時、
物事は解決へと向かうような気がする。

長期戦だ。

「石の上にも年」というので、
取りあえず、年間と期限をつけてみた。
夫の持っている力を信じて、暮らしてみよう。
途中修正もあるかもしれないが、取りあえず。

期間限定すると、やるべきことが見えて来て、
心なしか、フットワークも軽やかに……。
プロフィール

小吉

Author:小吉
相棒の発症のおかげで、
加減して飲むことを学習。
依存症予備軍!?
猫舌の呑助です。。。。。

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