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短冊

「ひざが痛い」と言い出した夫に、
「またか。。。」と、うんざりしてしまった。

去年の10月だった。
2回目の入院治療を終えて、1週間ほど経った頃、
夫は、急に両ひざの激痛に襲われた。

退院後すぐに、隠れ飲酒が始まったので、
痛みは酒毒の影響だろうと、私は思っていたが……。

地元の総合病院(整形外科)では、
痛みの原因は不明との事で、
痛み止めの塗り薬と湿布が処方されただけ。

その後、3回目のアルコール依存症入院治療を経て、
ひざの痛みは、小康を保っていたのだが……。

退院から、3か月が過ぎ、
また、ひざの痛みを訴えるようになったのだ。

隠れ飲んでいるアルコールのしわざとしか思えない。

夫は、俗にいう、連続飲酒状態だ。
今では、AA会場に行く体力もない様子で、
日がな一日中、ベッドでゴロゴロしている。

でも、酒と煙草の買い出しには、こっそり行っている。

3回も入退院を繰り返しているので、
自分がアルコール依存症であることは、
理解していると思うが……。

病気に立ち向かう気力が感じられない。
死んでもいいと思って、
飲み続けているように見えてしまう。

酒をやめられるはずがないし、
やめる気もないのだろう。

このまま飲み続けていたら、命の保証はない。

でも、もう、どうでもいい。。。。。。
最近は、夫のことをあきらめてしまっていた。

そんな薄情な心の内を
『家族の会』で、吐き出した。

「やるべきことは、全てやり尽くしたの?
 中途半端だと、後悔することになるから……。
 今できることを行動に移しましょう。
 問題を一人で抱え込まないで……。
 保健所や病院に相談してみましょうよ。
 一緒に行ってあげるから……」

やさしく勇気付けてくれる言葉が、心に響く。
 
万策つきたわけじゃない。
まだ、私は動いていない。

翌日、私は一人で、
夫が通院しているアルコール依存症の専門病院へ……。

そこの医療福祉相談室を訪ね、
夫への対応が分らなくなっている混乱を打ち明けた。

精神保健福祉士は、明日が第一回目の
「家族介入プログラム」への参加を勧めてくれた。

講義とグループセラピーで、
依存症者とのかかわり方を学んでいくという、
今の私にぴったりのプログラムだ。

まだ、頑張れる。
小さな希望の風が吹いた。

P1070056.jpg

七夕の短冊に思いを記す。
「私の問題はきっと解決する」
そう、信じることで、心を落ち着かせている。

賭けに出る

ずるずると、飲み続けている。
AAにも行かず、孤立している。
処方薬は飲んでいるのだが、
アルコールの影響で効果が期待できない。

満身創痍の痛みの中、
マイナスの感情が渦巻いている。

夫は、病気にやられっぱなしだ。
もう、自分には立ち向かう力はないと思い込んで、
この不幸な人生に甘んじているようにも見える。

夫が飲み続けているのは、アルコール依存症という
「飲まずにはいられない病気」だからに他ならない。

病気には、治療の方法があるのだ。

私は、やっぱり、
病気を治してもらいたいと思っている。
そんな思いを手紙にして、夫に手渡した。

『…………………………
 飲酒は病気のあらわれですから、
 恥ずかしいことではありませんし、
 隠す必要もありません。
 再発を主治医に正直に伝えて、病状に見合った
 正しい治療を進めなくてはいけないと思います。
 …………………………
 今度の診察日に、先生に相談してみましょうよ。
 その際、私も同席させて下さいますよう、
 …………………………
 ○○と△△の父親は、私の夫は、
 病気にやられっぱなしで、
 終わってしまう男じゃないと信じております。
 あなたには、KO勝ちが似合います。 
 ……………………………………………………』

夫は、学生時代、キックボクシング部に所属していた。
ノックアウトで、新人賞や勝利者賞を手中にした夫。
あの不屈の精神は、どこへ行ってしまったのだろう。

便箋3枚に、私の心情をしたため、
夫がどう動くのか、私は懸けに出た。

数日後に、専門病院での診療予約日が迫っていた。

退院後、2週間ごとの外来受診は、
今までは、夫一人で通院していたが……。

急激な体調悪化の中、夫だけの通院に不安を感じ、
私は手紙で、付き添いを願い出たのだ。

主治医に、妻の側から見た夫の現状を伝え、
治療法を指南して頂きたいというもくろみもあった。

手紙を読んだ夫からの返事はなかった。
催促したい思いで一杯だったが抑えて、
夫の出方を静かに待つことにした。

そして、なんのリアクションもなく、
とうとう、当日の朝になってしまった。

作戦失敗、
手紙は効果なしということなのか。。。。。

でも、結果がどうであれ、
手紙を書いたことで、私の気が済んだので、
良しと思うことにした。

朝顔

診療予約日の朝、夫は無言で席に着くと、
用意された朝食をゆっくりと食べていた。

一足先に、食事を済ませた私は、
夫の姿を遠巻きに眺めながら、
何度も何度も、自分に問いかけていた。

私は、今日、どうしたいのか?
家で留守番でいいのだろうか?

手紙を読んでも、夫は何も言って来ない。
手紙の効果はなかったようだが、
一人で病院に行かせるのは、やはり心配だ。
診察室の中に一緒に入れなくてもいい。
行き帰りの付添いだけでもしたい。

同行できるよう、
早めに家事を終わらせようと、飛び回っていたら、
まだ6時半なのに、夫は身支度を終えていた。

「もう、出掛けるの?」

「9時の予約だから、7時には家を出るから…」

「わかった。 すぐ、支度するから、待っててね」

戸締りの確認で、ベランダの窓際に立った時、
目に飛び込んできた光景に、心がぽっと明るくなった。

朝顔が、今朝、最初の一輪を咲かせていたのだ。

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こぼれ落ちた朝顔の種が勝手に芽を出し、
つるを伸ばしていたので、支柱を立ててはみたものの、
育つか半信半疑だった。

この朝顔は5~6年前、おそらくは、
飲みながらの散歩の途中で、夫が拾った種だった。

初めこそ、ベランダのプランターで賑やかに咲いていたが、
年を追うごとに貧相になり、種の収穫もなくなっていたのだ。

夫が連れて来た朝顔が、このタイミングで花を付けた。
「今日は二人で病院へ行ってらっしゃいね」と、
まるで、見送っているかのように思えた。

2時間近く車を走らせ、病院に到着。
診察室の前の椅子に座り、順番を待つ間、
夫に、それとなく聞いてみた。

「先生に、飲んでいることをちゃんと伝えようね。
 今のパパの病状に見合った治療を相談してみようね」

夫は、しばらく黙っていたが、
「今日はいい。 相談は今度にする」

いつものように、薬だけ処方してもらって、
やり過ごそうと考えているようだ。

歯痒い思いだったが、夫がそれでいいのなら、
これ以上、私は口出ししないと決めた。

夫の番になったので、
杖を頼りに歩く夫の手を引いて、私も診察室に入った。

退院後の通院で、夫婦同席の受診は今回が初めて。
主治医は、夫の具合の悪さをすぐに感じ取っていた。

「だいぶ、つらそうですね」

主治医の声がけに、夫は、
「スリップしちゃいました!」と、さらりと答えていた。

「そうですか。 どの位、飲んでますか?」

「毎晩、2合位。。。。。」

小さく見積もっている。
実際は、その倍は飲んでいるはずなのに……。
でも、飲んでいることが病気なのだから、
量の誤差は問題じゃないと思って、黙っていた。

「このままでは、日に日に、悪くなっていきますよ。
 入院して、解毒から始めた方がいいと思いますよ」

夫も、そうするより他に道はないと思っていたようだ。
すんなりと了解し、2週間後の入院予約を取り付けた。

また、7月の入院だ。
最初の入院も、2回目の入院も7月だった。
巷の暑さから逃れ、院内で過ごす生活。
病院が夫の避暑地になっている。

夫の命を助けたいと思った。
再飲酒のまま、終わらせたくなかった。
やり直して欲しいと思った。

私は、お節介をしてしまったのだろうか?

夫は、死ぬまで飲み続けたかったのかもしれない。

生きててほしい。 助かる病気なのだから。
そんなふうに思うのは、私のわがままなのだろうか?

家に戻り、しぼんだ朝顔の花を見ながら、
夫の入院を手放しで喜べない私がいた。

疑問符

入院を予約したことで、飲酒が加速している。
人生最後の酒と思っているのだろうか?
夫は、したたかに酔っている。

夫が自室から出て来るのは、食事とトイレの時だけ。
痛いひざをかばって、すり足で力なく歩く姿は、
生気を失い、まるで、亡霊のようだ。

そんな状態にもかかわらず、私の留守中に、
酒と煙草を買いに行くことは出来ているようだ。
全てのエネルギーを酒を飲むことだけに使っている。

こんな調子で、
夫は、酒をやめることが出来るのだろうか?
夫は、立ち直りたいと願っているのだろうか?

4回目の入院を目前にして、
またまた、疑問符が浮かんで来て……。
夫の飲酒にばかり、心が集中してしまう。

そもそも、夫の病気なのだ。
夫が、主役で病気と闘わないことには、
この病気は治められないのだ。

専門治療を受ける予約は出来ている。
夫も承知している。
私は、当日の朝、夫を病院に送り届ければいいのだ。

夫の飲酒で憂鬱な気分の時は、
自分が楽しめることに時間を使うようにしている。

髪留めを手作りしてみた。

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パチンと髪に留めて、ちょっと若返り気分を味わっている。

夫は病気だから、飲み続けているだけ。
治療が始まれば、流れが変わるかもしれない。

ラスト・チャンス!?

入院の朝も、ひとつだけ朝顔が咲いた。
朝顔が、小さな応援花になっている。

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夫に付添い、病院へ……。
看護師も医師も、知った顔ばかりだ。
入退院を繰り返しているお粗末さを思うと、
本当に、肩身が狭い。

「立て続けに、3回も入院されていますね。
 これが最後になるよう、
 しっかりと治療を進めて行きましょうね」

医師の言葉に、夫より先に、私が反応してしまった。

「これまでの失敗を心に刻んで、
 今度こそ、うまくいってほしいと思っています」

入院にこぎ着けたことで安堵した私は、
つい、余計なことを口走ってしまったのだ。

医師が知りたいのは、夫の意志だ。

「今回の入院は、どういう気持ちで臨んでいますか?」

「……ラスト・チャンスだと思っています。
 最後にしないと、入院代がもったいないし。。。。」

夫は自身の身体ではなく、お金の心配をしている。
所帯染みたことを言う夫に、私は面食らってしまった。

なんだかなぁ~。
アルコール依存症から回復したいという
決意があまり感じられない。。。。。。

また、前回同様の結末が待ち受けているような、
いやな予感がしてしまったが……。

夫の力を見くびってはいけないと思い直し、
とにかく、今は慌てず騒がず、経過観察中。

私だけになった家で、
家事全般手抜きで、息抜きを楽しんでいる。
プロフィール

小吉

Author:小吉
相棒の発症のおかげで、
加減して飲むことを学習。
依存症予備軍!?
猫舌の呑助です。。。。。

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