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花に託す

花のある暮らしは素敵だけど、
生花は高価、我が家には贅沢品なのだ。

だから、ひと様へのプレゼントと墓参り以外で、
切り花を買い求めることは、ほとんど無かった。

夫が酒に飲まれて、おかしくなっていき、
殺伐とした空気が家中に充満して……。

気が付けば、ため息の嵐。

そんな折、いつものスーパーで、
いつもは素通りする花売り場で足が止まった。

きれいだなぁ~と見とれて、花束を衝動買い。

キッチンの水回りには小さく、
玄関には大きく飾ってみた。

ついでに、夫の部屋にも、そっと置いてみた。

この部屋で、病気の身体が欲するままに、
夫は、延々と隠れ酒を続けていた。

『心配してますよ。。。。。』

物言わぬ花に思いを託したが……。

酒を飲むことに忙しい夫に、
花を見る余裕は、なかったのかもしれない。

でも、手頃な値段の物を探して、
ずっと、切らさず飾り続けている。

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花は、私の心に落ち着きを与えてくれる。
花を眺めているだけで、
今にも爆発しそうな夫への不平不満が、
我慢できるくらいの大きさに納まるから、不思議だ。

今、夫は入院中なので、
私は満開の花と一緒に留守を守っている。

夫がいないので、ひとり暮らしだ。
ひとり分の食事作りは、難しい。
いつまでも、同じおかずが冷蔵庫に居座っている。

『早く元気になって下さいよ。 今度こそ。。。
と、花に拝んでいる私がいる。

でも、回復を信じる気持ちとは裏腹に、
期待してはいけない、信じすぎてはいけないと、
戒めている、もう一人の私もいる。。。。。

入院後半

夫が入院しているという安心感で、
気ままな独り暮らしが続いていた。

治療プログラムには、外泊訓練が組み込まれている。
入院も後半になり、外泊は2泊3日になっていた。

夫は帰宅すると、いつもなら、
夕食後、録画したテレビ番組をしばらく楽しんで、
後は、自室で眠くなるまで読書だったが……。

今回は、ちょっと、様子が違っていた。

夜なべに、自室の片付けが始まって……。
仕事用のカバンの中も整理したらしく、
商品カタログや見本などを色々持ち出して来た。

「いらないから、捨てて」と、ごみの分別を頼まれた。

きょとんとしている私に、夫は言った。

「古いから、役に立たないんだよ。
 新しいのが出てるはずだから……。
 これは、もう、全部いらないんだ」

休職中の会社に復職する気はないのだろう。
休職期間の満了をもって、退職するのだろう。

それで、いいと思う。

仕事再開は、断酒生活が軌道に乗ってからでいい。

経済的には苦しいが、
夫婦二人だけの暮らしなので、やりようはある。

まずは、断酒を習慣付けることだ。
通院と自助グループへの参加で、
飲まない日々を積み上げてほしいと思っている。

心が落ち着いてくれば、やる気も出て、
きっと、エンジンはかかる。
いつの時も、夫は頼りになる男だったのだ。

まったくもって、私は呑気だ。
今まで、糠喜びで終わった事実を忘れて、
ちゃっかり、夫の復活を信じてしまっている。。。。

変貌

外泊訓練で、家に戻った夫は、
夜半に、自室の整理整頓に取り掛かり……。

ごみ出しを終えると、
食卓の椅子に腰かけて、コーヒーを飲んでいた。

夫は、いつになく饒舌だった。

病院での仲間の失態のあれこれ、
治療プログラムで、AAへ参加した時の様子、
作業療法での陶芸作品の出来栄え等々、
次から次へと、お喋りは止まらない。

夫は、「退院後はAAに通う」とまで言い切った。

前回の入院では、自助会を毛嫌いして、
退院後、一度も足を運ばなかったのに……。

さすがに、3度目の入院となると、
好き嫌いなど言っている余裕はないと、
今までの浅慮を省みたのだろうか。

順調な回復ぶりをうれしく思っていたのに……。

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翌朝、起きて来た夫は、ふわふわしていた。

「コーヒー、くださぁ~~~い」

夫らしくない、ハイテンションな言い方に、
私は、違和感を覚えた。

夫はコーヒーカップを持って、よたよたと自室へ……。
手元もふらついていたようで、夫の歩いた廊下には、
こぼれたコーヒーの後が点々と続いていた。

朝食で席に着いた時も、ぼーっとしていた。

処方された睡眠剤が効きすぎているのだろうか。

夫はまだ、半分眠っているようだった。
朝食前と昼食後の薬を、朝ご飯前に飲み終えていた。

飲用の間違えを指摘すると、急に不機嫌になり、
その顔付きは、飲んだくれていた時と同じだった。

喋り方も刺々しく、イライラ感が半端ない。

夫の一挙一動に、びくついていた日々が、
私の脳裏に、鮮明によみがえり……。
夫の変貌に戸惑うばかりだった。

引きずらない

腫れ物に触るように、残りの時間を過ごし、
夫が病棟に戻る日になった。

私の出勤時間と重なっていたため、
部屋の戸締りをして、玄関先に向かうと……。
身支度を終えた夫は、手提げ袋に、
何かを押し込んでいるところだった。

その何かが、少しだけ見えた。
安価なウイスキーの中瓶だ。

入院前の飲み残しが、部屋のどこかに、
隠してあったのかもしれない。

整理整頓中に、隠し酒とご対面、
そして、それを飲んだとしたら……。
一連の不可解な夫の行動が全て納得できる。

気が付かない振りをして、やり過ごそうと、
いったんは胸に収めたが、駄目だった。

「今度こそ」の期待が壊されたと思うと、
私は、黙っていられない女になった。

「空き瓶、見えちゃったんだけど……。
 お酒、飲んだの? まさか、飲んでないよね?」

マンションの正面玄関を出た夫に駆け寄り、
その後ろ姿に、遠慮がちに聞いてみた。

夫は振り向きもせず、小声で「あぁ」と言いながら、
駅に向かうバス停へと、どんどん歩き出し……。
割り切れない思いのまま、
私は、反対方向の職場へと自転車をこぎ出した。

桜が満開になれば、退院の見通しだ。

気が緩んだのか?
魔が差したのか?

いったい、夫は何を考えているのやら。

病気が大きすぎて、受け入れられないのだろうか。
飲まない生き方を選択し、
自分を変えていくのは難しいことだが……。
心身の健康を取り戻すには、断酒以外に道はない。

往生際が悪すぎる。
いい加減、目覚めて下さいな。

と、夫が変わってくれることを
切望している自分に、はっとした。

夫の世話を焼いている場合ではないのだ。
変わらなければいけないのは、私だ。

夫の生き方は、夫が決めればいい。
私は、私の人生を生きればいい。

残り少なくなってきた私の人生を
つまらなく終わりにしたくない。
だから、いやな思いは、引きずらない。

『過去に感謝、未来に希望、
 現在には勇気と寛容な心

また、週末がやって来る。
もちろん、夫もやって来る。

心穏やかに、迎い入れたいと思っている。
プロフィール

小吉

Author:小吉
相棒の発症のおかげで、
加減して飲むことを学習。
依存症予備軍!?
猫舌の呑助です。。。。。

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