妻役、返上

飲みたい衝動に駆られたら、
居ても立っても居られないのだろう。

「台風の夜だから、外に出ないで。。。」

言っても無駄と知りながらも、言わずにはいられなかった。
もちろん、夫は酒を求めて、ふらつく足でコンビニへ……。

「夫は、アルコール依存症。
 病気の身体が酒を欲している」

自分に言い聞かせるが、心は落ち着かない。
大きな落胆と絶望感で、眠れない。

憂さ晴らしに、酒でも飲みたい気分だが、
酔って、現実逃避しても、何も解決しない。

酒以外にも、気晴らしの方法はあるはずだ。
悲しみや辛さを抱えての飲酒は深酒になり、毒になる。

私の気分転換は、ナンプレ(数字のゲーム)だ。
ただ、ひたすら、問題を解き進める。

その夜、無事に戻った夫は、
自分の部屋で酒を一杯引っ掛けてから、
数字とにらめっこしている私の所に顔を出した。

「明日、会社に行けるかなぁ~」

夫は、9月下旬からずっと欠勤していた。

「会社行きたくないなぁ。やだなぁ~」

駄々っ子のような言い方だ。
酔っ払い相手に長話はしたくなかったので、
投げ遣りな受け答えになってしまった。

「こんな調子じゃ、明日も休むんでしょ!」

「こんなって、どんなことだよ!」

やっぱり、酔っ払いだ。
些細なことに、絡んで来る。

「飲み過ぎてるから、明日も具合は悪いまま、
 家で、寝たり起きたりってことです!!」

ついつい、日頃のうっぷんを言葉に乗せてしまった。

夫は、しばらく黙ったままだった。
気まずい空気が漂って……。

「嫌なんだろう。 別れるか」

夫の唐突な問い掛けに、即答してしまった。

「別れた方がいいと思う」

私の返事が意外だったのか、夫は、念を押して来た。

「離婚するって事だぞ!!」

「わかっています。
 パパが依存症の治療を受けるのなら、
 パパの回復のために、私の出番もあるけど……。
 悪くなるばかりのパパを受け止めるほど、
 私の器は大きくないから。
 希望のない暮らしを続けて行く自信ないから。。。。」

今までの奇行、これからも続くであろう奇行を思うと、
私には荷が重すぎて、もう、お手上げ状態なのだ。

「離婚なら、子どもたちは、どっちと暮らすんだ!!」

夫が、急に細かいことを言い出したので、
私は、これ以上、話を長引かせたくなかった。

「しらふの時に、きちんと話し合おうね。
 今は、酔っているから、やめようね」

夫は、まだ、言い足りないみたいだったが、
ほどなく、酔いが回って、その場で寝てしまった。

私は、ますます、目が冴えて眠れない。
気を取り直して、また、ナンプレを始める。

ふと、思った。
私は、ナンプレに依存している!?

いったい、この世に、
依存していない人間なんて、いるのだろうか。。。。

依存の対象が、アルコールであった故の悲劇!?
夫は、いつまで、
酒に躍らせれた主役の座に居続けるのだろう。
共演者の私がいなくなれば、夫のひとり芝居になる。

腐れ縁

いったい、どれほどの記憶が残っているのだろうか。
こちらは素面、相手は目もうつろな酔っ払い。

「離婚だ!!」と騒ぎ立てたのは、夫だ。

話を蒸し返す気にはなれず、
棚上げしたまま、夫の動向をうかがう。

夫は、出勤した。

軽く詰めたお弁当も、食べ残していた。
具合が悪いのだ。
体力もなく、仕事どころではないのだ。

食欲減退で、夕食も、すぐに箸を置いてしまい、
処方箋や市販の胃薬や風邪薬をちゃんぽんしている。

こんなに体調が悪いのに……。

悪魔に取りつかれているとしか思えない。
自室に籠り、ウイスキーの小瓶1本は、
欠かさず、飲み干しているのだ。

夫が死を呼び寄せているような気がしてならない。
夫は、おそらく、私より先に亡くなるだろう。

期限がぼんやり見えて来ると、
それまでの恨みつらみが、静かに引けて行く。

大変難儀な病気に振り回されて、
夫もつらいのだ。

理不尽な言動は、アルコールのなせる業。
本来の夫は、家族思いの温厚な紳士なのだ。
変わり果てた今の夫は、にせものだ。
私は、本物の彼を知っている。

飲み続けて死ぬ夫、飲まずに生きる夫、
どちらの結末になっても、受け入れ、見届けよう。

「腐れ縁だから。。。しょうがない。。。」

他人様には、そう、うそぶいている。
まったく、口が悪い、可愛くない女だ。。。。

迷いの中

嵐の前の静けさなのだろうか。

夫の深夜の徘徊が落ち着き、
最近は、枕を高くして眠れるようになった。

相変わらず、隠れ飲みは続いている様子だが……。

夫の中で、何かが変わりつつあるのかもしれない。

聡明な夫は、酒で壊れていく自分に気付いているはずだ。
そして、この現状を変えたい、改善したいと、
誰よりも願っていると思う。

「酒を断つ」ことから、全ては始まる。

理解は出来ても、いざ、実践となると、
その壁は、乗り越えるには高すぎて……。

今まで、うまくいかなかったという不安が先行して、
尻込みしているように見える。

「入院した方がいいのかなぁ」

夫の方から、話しかけて来たので、
チャンスとばかりに、専門病院への再受診を勧めた。

「入院して、アルコールを抜いたら、
 今の体調不良は、少しずつ良くなると思う。
 だから、もう一度、挑戦してみようよ」

夫は、まだ、迷いの中にいた。

「酒を止めて、何か、いいことがあるのか。
 生きてて、楽しいことがあるのか。
 知っているのなら、教えてくれ!!
 身体は、ボロボロさ。
 酒を止めても、長くは生きられない。。。。」

楽しいことがあるなら、断酒するけど、
いいことがなさそうなら、断酒しない。


そんな屁理屈が出るうちは、まだまだ、時期尚早だ。

飲み続けるリスクを思うと、
一日でも早く、酒と縁を切ってほしいが……。
急いては事を仕損じる。

散歩に出た夫は、道端の花を摘んで持ち帰ってくれた。

10月生まれの私は、この時季に咲くコスモスが大好きだ。
花言葉は、乙女の真心。

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はるか昔の乙女は、夫の回復を祈り、
夫の心が決まる日が、きっと来ると信じて待つ。
せっかちな私は、
病気を患う夫のおかげで、かなり忍耐強くなったのだ。

人は、人に影響されて変わる!?
夫に、良い影響をもたらす人でありたいと思う。

運任せ

生まれ持った「運」があるという。
使い果たしてしまえば、もはや、奇跡は起こらない。

懸賞応募にハマって、ちょこちょこ当選している私は、
コンスタントに「運」を使っていることになり、
この先、大きな奇跡はなさそうだ。

でも、賭け事等はノータッチの夫には、
ビギナーズ・ラックとやらがあるはず!?

最近、夫は、ゴロのいい数字に出会うそうだ。

たとえば、コンビニでのレシート。
お買い上げ金額が777円だったり、
つり銭が、888円だったり……。
ふと見た、デジタル時計が11時11分だったり……。

どれも、ただの偶然なのだが、
本人は、「何かある!!」と、思っているようだ。

いよいよ「運」が向いて来たということらしい。

「まずは、オータムジャンボでも買ってみるか」

夫は、宝くじに焦点を合わせたが……。
オータムジャンボ2012宝くじの発売は、10月12日まで。
昨日で終了してしまったのだ。

「運が悪い。。。」と、残念がる夫。

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宝くじ高額当選は、奇跡に近い。
アルコール依存症の回復も、奇跡に近い。

夫の生涯の「運」が、まだ、手付かずなら、
私の残り少ない「運」も、かき集めて、夫にあげるから……。

「運」を味方に付けて、
病気を乗り越える奇跡が起こってほしい。

きっと、今がターニングポイント。
生きるために飲まない選択を!!

私は、まだ、この世で、夫と暮らしていたい。

大盤振る舞い

高齢なので、これ以上、トシは取りたくないが、
誕生日を祝ってもらえるのは、うれしい。

昨日、私の誕生日。

離れて暮らす娘が、バースデーケーキ持参で帰省する
手はずだったらしいが、急用で出て来れなくなった。

急遽、買い物が不慣れな夫が、仕事の合間に、
お店を梯子して、晩餐?の準備を進めてくれた。

娘の姿がなくて、寂しい思いをしないようにと、
大きな花束、大きなケーキ、ケンタッキーのチキン山盛りと、
とんだ散財をかけてしまった。

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そして、やっぱり、あった。
冷蔵庫には、夫が見立てた白ワインが、
ケーキの箱に隠れるようにして、出番を待っていた。

誕生日には、祝杯を挙げる。
今もなお、暗黙のルールが続いている。。。。。

ケーキに立てたローソクの火は、
一気に吹き消すと願い事が叶う。

以前、娘がそう言っていたのを思い出し、

「どうぞ、夫が適量のお酒で満足できますように……。 
 どうか、飲み過ぎにブレーキがかかりますように……」

有り得ないことだが、願わずにはいられなかった。

飲むことを止めない夫に、今、断酒を期待しても無駄だ。
もちろん、節酒も無理なのだが……。

この病気は、酒さえ飲まなければ、
回復するというような簡単なものじゃない。

依存は、根が深いのだ。

因果な病気を抱えて、
どう生きていくのかは、夫が決めるべき問題だ。

私は、夫が決定した現実を
受け入れるしかない。。。。。。

それにしても、今年の誕生日、
夫は、大盤振る舞いだ。

晩餐を用意し、花束の他にも、
ネコ柄の財布、眼鏡ケースも……。

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こんなに、たくさん頂いてしまい、
これで、打ち止めのような???

来年の私の誕生日に、夫はいるのだろうか。
複雑な思いに、戸惑っている。。。。。。

肥料

奇行が落ち着いていたので、油断していた。

私の誕生日にかこつけて、
夫は、家族の前で、堂々とワインを飲んだ。
それが刺激になったのか、
その後、日々の酒量を抑えることが出来なくなった。

夜の10時近く、洗面所で、歯を磨いていたら、
よろよろと、居間へ向かう夫の姿が目に入った。

夫は、とっくに床に就いていた。
さては、トイレで目が覚めたのか?

歯ブラシ片手に、慌てて追いかけたが、遅かった。

居間に置いてある観葉植物の鉢植えに、放尿。
鉢を便器と見立てて、器用に用を足している。

「待って。 止めて。 違う、違うから!!」

私が声を荒げたので、息子が出て来たが、
何も言わず、すぐに、自室に戻ってしまった。

父親の醜態を目の当たりにして、
息子の遣る瀬無い思いが痛いほどに伝わる。

「ここは、トイレじゃないから。。。。」

放尿を中断して欲しくて、食い下がる私に、

「なんだよ。 ブツブツうるさいな!!」

寝ぼけている夫は、状況が把握できず、
的を鉢からずらした。
そして、畳の上に、水溜りが出来た。

さっぱりした夫は、居間で寝てしまった。

雑巾で拭き取っても、まだ、湿っているので、
畳の上には、吸水用に新聞紙を広げて置いた。

朝、敷き詰められた新聞紙を見ても、
夫は何も言わなかった。

予期せぬ肥料を大量に浴びせられたパキラは、
ただ今、日光消毒中。

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高濃度のアルコールで、枯れなければいいのだが……。

夫も、パキラも、経過観察が必要だ。。。。

夜食

「食欲の秋だから……」と、悠長に構えていられない。

夕食を終えて、2時間も経たないのに……。
しかも、「食欲はない」と言いながら、夫は厨房に立つ。

パンにチーズてんこ盛りのトースト。
ハムエッグらしきものには、
香辛料を手当たり次第ふりかけて……。

大胆な手さばきが、いかにも、酔っ払いを彷彿させる。

出来上がった手料理をまとめて大皿に盛り、
食卓で、ムシャムシャ、食べているのだが……。

フォークを持つ手を口まで誘導できず、
テーブルの上には、たくさんの食べこぼしが……。

無理もない。
夫は目をつぶりながら、食べているのだから。

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食べ終えた夫は、自室に戻り、ひと眠りしたものの、
やはり、2時間ほどで起き出し、またまた食べ物を物色。

今度は、カップうどん。
ひと口食べるたびに、七味をドボドボ振り入れて、
うどんのつゆは、真っ赤になっていた。

「さっき、食べたばかりだけど、おなか空いてるの?」

「いや、腹は減らない。。。。。」

「夜遅くに食べるのは、良くないよ」

「食べてない。。。。。」

会話が噛み合わない。
寝ぼけているのか、酔っ払っているのか。

こんな中途半端な夜食を
一晩に多いときは、3回ほど繰り返す。

本来ならば、肥えるはずなのに……。
夫は、ガリガリに痩せている。

高カロリー食の行方は、何処へ。。。。。

燃費が悪すぎる。
ブレーキも効かない(飲み過ぎが止まらない)ので、
修理に出すか、廃車にするか、悩み所だ。

ちなみに、夫は、
今はまだ、廃車希望のままだ。
修理人の腕前を信じていないのだ。

専門病院とは繋がろうとしない夫に、
家族は振り回されっぱなしだ。

夫の挙動に鈍感でいることで、心を落ち着かせている。

カーネーション

先だって、実家に顔を出した時、
母が、ペーパーフラワーの本とその材料を出して来た。

それは、実家に住む妹が、
押入れの奥に、15年以上も放置したままの物だった。

捨てるのはもったいないと思ったようで、
手芸好きな私に、白羽の矢が当たってしまった。

年を重ねるごとに、細かな作業が面倒になってきて、
材料を見せられても、作る気力も興味も湧かなかったが……。

せっかくの母の思い付きを、無下に断ることも出来ず、
心とは裏腹な一言まで添えてしまった。

「今度、遊びに来る時は、
 出来上がった花を持て来るから、楽しみにしててね」

いくつになっても、母の前では、いい子ぶる私。

母には、夫の詳しい病状を知らせていない。
夫の奇行に振り回される日々の苦悩を吐露してしまえば、
少しは気が晴れるかもしれない。

でも、所詮、ただの愚痴、展望のない話だ。
聞かされた方も、言葉に詰まるだろう。

アルコール依存症なんて、
もともと、酒を飲まない母に理解できるような、
簡単なものではないのだ。

ずるずる酒を飲み続ける、だらしない男。
娘を苦しめる、ろくでもない男。。。。。

私の夫への偏見を生むだけだ。

高齢の母に、心配の種を与える訳にはいかない。

仕事の合間、家事の合間に、せっせと内職した。
カーネーションが1本出来上がるたびに、
優しい気持ちになれた。

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花の出来栄えを夫に見せると、

「部屋に飾った造花は、埃だらけになるだけだね」

造花の存在を否定するような口調に、
夫の心の色を垣間見たような気がした。

アルコールの悪影響で、どうにもならない苛立ちが、
言葉を刺々しくさせている。

埃は叩けば、落ちるが、
夫の身体に沁みついたアルコールは、
死ぬまで消えないだろう。。。。。

「飲めない身体」であることを認めない夫は、
「飲んで死ぬ道」を加速中。

いつ、どこで、どんなふうに死んでもおかしくない状態。
死と隣り合わせの夫を、見張るような生活。
毎日が虚しく過ぎて行く。。。。。

本日、秋晴れの青空、
カーネーションの花束を抱えて、
母に会いに行く。

酒、人を呑む 「親不孝」

人生とは、まことに、微妙なものだ。

無愛想で、威張っていて、時には暴力も……。
殴られる理由が分からない。
八つ当たりとしか、思えなかった。
そんな、飲んだくれの父親が嫌いだった。

「早く、死ねばいいのに……」
子どもの頃、いつも、布団の中で念じていた。

私が高校3年に進級した4月、父が入院した。
病名は胃がんだった。

「手術をしても、がん細胞は取り切れないので……。
 このまま手術はしない方がいいように思われますが…」

医者の説明を受けた親戚たちは、
がん細胞を少しでも取り除いてほしいと手術を強く希望。
胃潰瘍の悪化と聞かされていた父も手術に同意したので、
開腹したが、想像以上に癌は広がっていた。
手の施しようがないので、すぐに縫合し、手術は終了。

余命半年が、医者の見解だった。

5月、中間試験初日の教室、
問題を解いている最中の私は、担任教師に呼び出された。
父の急変を受けて病院に向かったが、間に合わなかった。

術後1週間足らずで、父は逝ってしまった。
まだ、43歳だった。

火葬場で、父の親兄弟達が、
骨になった父に酒をかけていた。

生前も酒まみれだったが、
死んでからも、浴びるほど酒をかけられて、
果たして、父は満足だったのだろうか。

「早く、死ねばいいのに……」
願いは叶ったはずなのに、心は重かった。
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小吉

Author:小吉
相棒の発症のおかげで、
加減して飲むことを学習。
麦酒以外の酒をたしなむ
猫舌の呑助?です。。。

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